抱きしめた彼女は小さくて、力加減を間違えると潰れてしまいそうだった
胸に顔を埋めて「暖かいですね」と囁いている
抱きしめて拒否されないというのは、基本的には受け入れられたということだけど、彼女は箱入りの教育を受けているから、本当は違う意味合いかもしれない
はっと我に帰った俺は慌てて彼女を引き離す
彼女は目をまんまるにするだけだった
改めて対面すると俺はどこかで怯えていた。なにを考えているのか一切解らないというのは、恐いことなのだと思い知った
友達だと考えが読める。言い切れる時だってある。テレパシストでもないけれど、お前らだってそういうもんだろ?
じゃあ考えが一切読めない人間ってどう思う?
自分の知識や経験に当て嵌らない思考を持った人間をどう見る?
俺は恐いよ。なにせそいつは、真っ暗なんだ
それでも俺は彼女を好きだった
惚れた弱味は呪いのように、彼女に生きて欲しいと願っていた
そのためにどうすりゃいいかはわからんけど、この村にいるってのは間違ってるだろ?
「家に泊まりませんか? 狭い家ですけど」
「急ですね」
「すいません」
そりゃ急にもなる。もう二度と近づくなと念を押されているんだから
「でも母がなんというか」
彼女の両親は村にいない。そんな彼女の母って誰だろう
あの祖母だろうか。はたまた家政婦?
「お嬢様。私が上手く言っておきましょう」
意外過ぎて素直に喜べず俺は黒服を凝視した
「あんたがフォローしてくれるなんてなんのつもりだ?」
「>>1さん、彼は私のためによく動いてくれていますよ」
今度は悔しいところから反論がでる。あいつは彼女を生贄に押し込む一人だってのに
むっと頬が膨れた珍しい彼女の表情に、こんな時だというのにカメラを構えていなかったことを後悔した
「では二人とも送りましょう」
結局、本当に黒服が彼女のフォローをすることになり、勢い全部で言った妄言が現実になってしまった
泊まりって言ったって……狭いってよりも汚くて男臭い家に彼女を入れる?
俺は彼女に拷問して洗脳したいわけじゃないんだが
夜だからか村の住民は家から出てこなかった
虫の鳴き声が少しだけ開けたウインドウの隙間から流れてきて、車内はそれに満ちた
「あの山は寂しがり屋で、あの山は怒りん坊で、あの山は泣き虫さんです」
「……?」
「三種の山神様がいらっしゃるこの土地では、百年に一度、間に人が入って架け橋とならないと山神様達は絶望し、辺りは焼け野原になると言われています」
「……はあ」
正直あまり耳にしたくない話題だ
「山神様達はどのような方たちだと思われますか?」
「それは寂しがり屋で怒りん坊で泣き虫なんですよね?」
「それでも性格ってあるじゃないですか。
ですので、もしかしたら山神様達は下戸かもしれませんし笑い上戸かもしれませんし大食漢かもしれません。
そう考えると、会うのが楽しみになってきませんか?」
まるでテレビのアイドルを語るかのようだった
普通の女の子が夢に馳せているだけのようだった
つまり、彼女にとって山神はそういう存在なのだろう
テレビのアイドルのように、簡単には会えないけれど、必ず実在して会うこともできる、その程度の存在なのだろう
お手軽な神様だよな
ついでに願いもちょちょいと叶えてくれないもんかな
彼女に頼らずてめえらで仲良くしてろって
泊まりが理由でテンションが上がっているのか彼女は始終お喋りで時間が過ぎるのは早かった
家の前に着いたので車から降りて、運転席のウインドウをノックする
「なんだ」
「あんたはどっちの味方なんだ?」
「そんな小さな物の見方で世の中を見通せると思うな」
「……つまり?」
「自分で考えろ」
全く意味が解らない
彼女が生贄になることに疑念を抱いてなさそうなのに、俺がやりたいように根回しをしてくれる
屋敷の婆に対立してしまう構図になるはずなのに……なんでだ?
これが漫画なら頭蓋骨の隙間から煙があがってる
「そうだ、一つだけ教えてやろう」
「なんだよ」
「お嬢様を助けたいのなら、子供を作るんだな」
「……なんて!?」
「自分で考えろ」
そこでウインドウは上がってしまって俺の焦燥も無視して黒服は車を発進させた
自分で考えろもくそも、聞き間違いじゃなければセックスしろとあいつは言ったわけだ
意識しつつちらっと彼女を見る
なんだかずっとドタバタして忘れていたけど、彼女って俺の好みのタイプなんだよな
そんな子が家に泊まるんだよな
布団が一組しかない、六畳一間の安いオンボロアパートに
「>>1さん、外側に扉が沢山ついてますよ」
「それ全部繋がってないんですよ」
「ええっ」
彼女は意味を理解しきれず、隣接した一件一件の隙間を探そうと試みる
そんな朗らかな光景を前にしても、脳内のピンクは頑固で落ちそうもなかった
ちょっとここらでブレイクタイム
箱入り娘、アパート初体験の巻
「一つ一つの扉に鍵があるんですよ」
「ということは、高価な巻物が眠ってるんですか?」
「蔵じゃないです」
「掃除道具が詰まってるんですね」
「倉庫でもないです。いいですか、家ですからね? 家」
「……奇っ怪な」
箱入り娘は妙な言葉を使うこともある
婆の影響だろうか
「この半端なく小さい空間が玄関です」
「確かに細長くて奥の空間に繋がっていて、一風変わった玄関ですね」
「細長いのはキッチンで奥の空間はリビングですから」
「寝る場所がないです?」
「リビングで寝るんですよ」
「食べる場所がないです?」
「金持ちめ……」
「あの、どうやって隣の部屋に行くんですか?」
「隣の部屋じゃなくて家ですよ。違う人の家なんです」
「……でも音が聞こえますよ?」
「ん?」
『oh come o~n,Fu○k me!』
「うおらっ!」
俺は 壁を 蹴りつけた!
「……どうされたんですか?」
「こういう家を集合住宅と言います。集合住宅とは他人が同じ家に住むようなものなので、互いに想いやりを持って生活しなければならないんですよ」
間違っても隣の部屋に聞こえるくらいの音量で洋物AVを見ちゃいけません
布団を折りたたんで小さな丸机にお茶を注いだコップを二つ並べた
「なんだか凄いところです」
彼女の好奇心は喫茶店初体験の時よりも凄まじかった
それは多分、喫茶店とは納得度が違うのだろう
喫茶店は雰囲気が統一されていて、必要のなさそうな道具も風景として成り立っていたりする
けどこの家は、狭かったり小さかったり、暮らすことを目的としているのに矛盾だらけだ
もちろん、そこに金というリアリストが介入すれば納得は産まれるだろう
でも彼女は金持ちの箱入りだ。金の価値を知ってるとは思えない
とりあえず安心してることがある
彼女は鼻を抑えたりむっと嫌そうな顔をしたり、今のところしていない
つまり、俺の足の臭いは届いていないということだ
僥倖!
しかし心配なので先に風呂へ入らせてもらった
先にもなにもよく考えたら彼女はうちの風呂に入るの? と考えると途端に息子が欠伸をする
起きなくていいっての
しかし、この狭い密閉されたバスルームに裸の彼女が出現するというのは、想像しただけで鼻血で月まで飛べちまう
シャワーを水にして滝のように浴びながら煩悩消えろと唱え続けて十分
気を鎮めた俺は風呂場から出てタオルで体を吹く
「すみません、厠はどこでしょう?」
音も立てずに小さく開かれたカーテンの隙間に彼女の顔があった
彼女は濁りのない瞳で俺の目を見て、裸の俺の象さんを見た
象さんは水で封印されていたが、視線を感じてゆっくりと、しかし着実に鎖を引きちぎる
鎮めたばかりなのに……修行が足らない
唖然呆然とする俺と、再び俺を見て「厠」と呟く彼女
どうやら彼女の辞書に性器と性別と恥じらいに関連性はないらしい
「もう少しだけ、我慢してもらえますか?」
「はい」
完全に起立した魔王も眼中になく彼女は部屋に戻っていった
まあ、そうだな、言えることがあるとするなら、逆だろこれ
ボクサーパンツを装着してスウェットを着て出た俺は彼女にトイレを説明する
我慢していたのか、羊のように向かった彼女はユニットバスという異次元空間に驚きを隠せなかったようだ
小さな悲鳴があがった
漏らした?
それはないか
「そのままお風呂に入っていいですからね」
「はい、ありがとうございます」
彼女が風呂に入っている間にドライヤーで髪を乾かしていると、すいませーんと風呂場から声がした
「どうしました?」と聞きながらドライヤーを止めて振り向くと、彼女がカーテンを開けて立っていた
タオルを手に掴んで、胸の辺りから垂らしただけの、ほぼヌードで
タオルによって決して見えてはいけない秘境や山の頂上は隠れているが、しかし彷彿とさせる横乳や斜めの線が顕となっている
「どう、しました?」
地面に恋した俺は床から目が離せない
ついでにキスがしたくなって中腰になってしまう
「どうすればお湯が湧くのでしょう?」
「アパートでお湯が湧いたら大変だ……」
彼女を浴室に戻して、口頭で説明してなんとか理解してもらった
それにしてもいい体だった……見た目の割には
などと生唾を飲んでしまうが、俺にそんな気はさらさらない
交際もしてないのにセックスなんてできるか
大体、そんな簡単な問題でもない
だけど俺は今夜理性を保てるんだろうか
なんか凄い一気に下衆な話題になったよなあ
でもこれが男ってもんだ
寝る
今回のでより妄想だって気づけたろwww
童貞妄想にありがちなテンプレじゃないかwww
まあたまにあったりするらしいけどな
まじ裏山け死刑
乙です
面白いから良いわw
妊れば強固な守護が発動するしな~
妄想?現実さ!
面白かったよ
次回も期待してる
心得てやがるな!?
明日も待ってるぞ、コンチクショウ!!