三日三晩とか仕事してるから実際無理だもんで、もうちょい長引くかもしれん
では投下する
ま、待ってませんよ
と俺は言ったつもりだったけど、実際にはなにも言えなくて呆然としていたらしい
数秒後、彼女がどうかしました? と聞いてきた
見とれてました、なんて言えるはずがない
「待ってませんよ。じゃあ行きましょうか」
「あ、どこかに行くんですか?」
「え、えと、そうですね、ちょっと軽く移動を」
「でしたら車でどうですか? 付き添いの者が心配してしまいますので」
出た! 付き添いの者!
真っ黒なスーツを着てシュワちゃんみたいなSPが現れたらどうしようとか思いながら、断れないので付いていくと待っていた車は黒塗りベンツ
半端ない威圧感があるこの車種、いつもなら背を向けて知らんぷりの対象だ
一気に手が震えだす
もしかしてこの女の子、ヤのつくご令嬢かもしれないのか?
怯えながら誘われるままに車の中へ
運転席に座っている男はちらっと見た限りでは線も細いしスーツも着ていない
ただ、明らかにその視線は俺を敵視していて身震いした
こんなにはっきりと敵視されたの高校二年以来だと目を逸らす
あの時俺を敵視したのは、確か天然の○がトチ狂った時だったかな
いい思い出だ
現実逃避も束の間、"付き添いの者"が「どこに向かわれますか?」と聞いてきた
移動をするつもりだったけれど車で移動は考えてなかった
でもどの道、移動できる範囲は限られている
写真を撮るための場所で、彼女が好きな自然のある場所
「緑地公園で」
それは近場の自然溢れる大きな公園だ
あの場所なら彼女もきっと喜んでくれるはず、と思っていたんだけど
表情を覗うにそこまででもなかったらしい
女性を喜ばせるってのは難しいもんだな
沈黙重苦しい車内で流れるゆったりとしたBGMは運転手の趣味なのか彼女の趣味なのか
少なくともお前らが嫌うような中身のないJ-POPしか聞かん俺にはちんぷんかんぷんな雰囲気音楽だ
「その腰のポーチに入れてあるのがマイカメラですか?」
「はい」
「見せて貰ってもいいですか?」
「どうぞ」
後部座席の隣同士に座っていて、俺は彼女に取りだしたカメラを渡す
車の揺れもあって渡す時にふと指が当たったのだが、彼女はそんな小さなことは気にかからない様子
俺だけドキドキしてなんか恥ずかしい
「結構本格的なカメラなんですね」
「まだまだ使いこなせてないんですけどね」
自分へのフォローは忘れない
「今日も宜しくお願いします」
「上手く撮れるかわかりませんが、こちらこそ」
小さな距離で頭を下げ合う
これで運転手がいなければ完璧なんだがな、鬱陶しい
さて、俺の目的はもちろん、彼女を写真に撮ることじゃない
そんなものは会うための口実だ
会うために八万も金をかけたと思うと俺の将来が不安にもなるが(貢ぐ的な意味で)、大切なのは仲良くなること
そして、次のデートも取りつけること
できるなら付き添いの者抜きで! だけど難しそうだな
そのためには今日という日を成功させなければならない
会うのが二度目ということもあり、俺の人見知りスキルもなりを潜めている気がする
緑地公園の入口で下ろされた俺と彼女は、大池の周りを散歩がてらポイントを探す
日曜日の昼間ということもあって、飼い犬がフリスビーを追っていたり家族が仲睦まじく遊んでいたり、雰囲気は良好だった
こんな場所でデートなんてしたことがない
少なくとも不良のデートスポットには載っていないプランだ
「風が気持ちいいですね」
「ですねえ」
会話がない!
これがイケメンだったりすれば会話がなくてもいいんだろうけど、ブサメンでコミュ力が低いって彼氏候補から外れるに決まってる
意を決して喋ろうと努力するも頭の中は真っ白だ
俺って不良の数少ない特技であるコミュ力さえもないなんて、本当にろくな物件じゃないな
「こうしてのんびりと歩いてると、なんだか楽しくなってきますよね」
と同意を求められた
俺は貴方と歩いてるだけで楽しいんですけど、とは流石に言えなかった
「ほんと、そうですね」
とりあえず合わせとく
彼女は第一印象で見る限り、景色と同化しちゃう系女子だ
どんな女子かは解らんが、ようは雰囲気を好む人だ、多分きっと。だといいなあ
「そこのベンチで休憩しましょうか」
暫く歩いてそう促して、ここらで写真も撮っておこうかと腰からカメラを取りだした
そこはバックが大きな池になっていて、木で組まれたベンチがいい味を出している気がする。あくまで俺の印象だ
彼女を中心に撮ってみるけど、どうにも旅行写真を撮っているだけに留まってしまう
彼女が気に入りそうな写真はこういうのじゃなくて、多分、自分が風景と一体化しているような印象的な画のはずだ
考えて、ピントを彼女にではなく池の奥に浮かんでいるボートに合わせて撮ってみた
あまりにも彼女がぼやけすぎていて、これではあまり綺麗ではない
上手い場所を探しつつ、中心をボートに合わせて光量を落として
「写真、本当に好きなんですね」
四苦八苦している俺を見て彼女が微笑んでいる
好きなように見えたんだろう
これはただの口実なんだけどな、と頭を掻きながら、その割に一所懸命だなと思った
「かもしれませんね」
だとすればそれは、写真が好きなんじゃなくて
そうだとしても彼女が原因に他ならなくて
でも、どちらかというと俺が好きなのは写真じゃなくて、写真に写っている彼女が好きなんだろう
ビギナーズラックが連発することはなくて上手く撮れず、集中力が切れてきたので俺もベンチに座った
もちろん、彼女との間に隙間はある
そこまで図々しくはなかなかなれないからな
「写真以外に好きな物ってあります?」
なんだかお見合いの場でご趣味は? と聞いているようだけど、こういう基本的な情報を知っとかないと次に繋げない、というのは女好きの×の言葉だ
「そうですね……よく、解りません」
「解らない?」
「私、ここ最近まで外にでる機会がとても少なかったものですから。こうして街まで出てきたのも先月の海が初めてでしたし」
「箱入り娘ってやつですか」
「ああ、そうですね。そうかもしれません」
流石最低でも黒塗りベンツを従える財力を持ったお嬢様
ずっとラリパッパで部屋から出てこずそのまま病院送りになった箱入り娘しか知らない俺には別世界の話を聞いているようだ
「両親に愛されてるんですね」
「だといいんですけど……」
自嘲気味に視線を落とした彼女を見て、金持ちには金持ちなりの苦悩ってのがあるんだろうな、としか思わなかった
まさか彼女と関わりを持ったことで俺の人生がああも狂うなんて思ってなかったから
それが良い方向に狂ったのか、悪い方向に狂ったのか、底辺暮らしの俺には計ることができないんだけどな
今から読む
結局、写真は最後までいいのが撮れなかった
何枚か彼女に見せたら喜んでくれたように思うけど、俺としてはイマイチだ
海で撮ったような鳥肌の立つ出来栄えを得られることなく、撮影は幕を閉じた
「また誘ってもいいですか?」
聞くと彼女は「もちろん」と頷いてくれる
「街の方でも構いませんか?」
なにせ街に出ないことには遊べない
映画館もゲーセンも飯を食うにも、自然だけの場所には存在しない
「街ですか……楽しみです」
「そっか。外に出られたのが最近なら、街は全然知らないんですよね? 行ってみたい場所とかあれば、案内しますよ?」
「本当ですか?」
ずずいと、淡い雰囲気の彼女には珍しいほど前に出て食いついてくる
箱入り娘でよかった……こんな釣り針にもかかってくれる
「それじゃあ、行きたい場所、纏めておきますね」
「はい」
彼女と黒塗りベンツに乗って元いた海まで乗せてってくれた
「それじゃあまた、来月の第二日曜日に」
「はい、十二時ですね」
今度は時間指定も抜かりない
俺って失敗を教訓にすることができるアホだろ?
車から降りて見送ろうとすると、運転席から"付き添いの者"が降りてきた
何事かと思い身構える。彼女はこちらに興味を示してないから、危険な臭いはないのだろうか
「今日はありがとうございました」
そこは内心びくつきながらも先制攻撃をしておく
近くで見るとそいつはやっぱり線が細い。けど、なんだろうな
元不良の勘が危険信号を発していた
因みに不良はこの勘が働かないと何度も何度も痛い目を見ることになるんだぜ
「どういうつもりでお嬢様に近づいている」
思ったよりもずっと直球な質問だった
やっぱり俺みたいなどう見ても凡人以下には厳しい目も向けるのだろうか
金持ちってのは凄いもんだ
「仲良くなりたいからです」
それ以外に言えないだろう? 好みのタイプでできれば交際したいなんて、いくら俺が馬鹿でも恥知らずじゃないんだから
そりゃ童貞だし乳繰りたいですなんて思ってるけど? それを言っちゃおしまいだろ
すると黒服のそいつは驚くべきことを口にする
「○○町□□3丁目18ー2。現在一人暮らし、家族構成もお前の過去も調べは済んでいる」
当たり前にぞっとした
お嬢様とか、金持ちとか、そういうのに耐性がない俺は背筋が凍ったよ
本当にそういうの調べるんだな、金持ちって
「俺がなにを言いたいか解るか?」
「……脅しですか?」
「違う」
脅しじゃないならなんだって言うんだ
なにせ俺は頭が悪いからな。思いついたことを否定されたら次なんてそうそう考えつかない
「お嬢様に近づきたいのなら、生半可な覚悟で近づくんじゃない。解ったか?」
「……それって」
俺が聞きたいことを言い終える前に黒服は運転席に戻っていった
俺の聞き間違いや思い違いじゃなけりゃ、それって俺に忠告してくれたってことだよな?
そう思うと黒服への印象がガラリと変わって、いい人なのかな、って
それ以上に"付き添いの者"と呼ばれる身近な関係らしき人物に認めてもらえた気がして、単純な俺は頑張るぞ、なんて大きく手を振って彼女を見送ったんだ
「来たん? ほんまに?」
「来た来た。からかわれてるわけじゃなくてよかったわ」
仕事終わりに友と大手チェーンの焼き鳥屋で酒を飲みつつ話は自然に彼女のことになった
運ばれてきた生ビールを片手にくっちゃくっちゃとずりを食べる俺達はどっから見てもおっさん臭い
話が思いっきり逸れるが学生で酒はやめとけ
成人しててもおおっぴらには辞めとけ
このご時勢ろくなことにならん
「しかもどうやら金持ちらしい。オプション付き黒塗りベンツに乗って移動してきた」
「どこのやーさんやねん」
「わからん……ヤクザの娘だったらどうしようかな。箱入り娘だっつってたし」
「うわっ、リアルやな。頭に死亡フラグ立っとるんちゃん?」
「見える?」
「すっかすかな頭が見えるわ」
「お前と変わらんだろ」
いつも通りの流れで笑っていると、友が急に真面目な顔をして言ってきた
「でもまあ、お前やったらどの道一緒なんやろな」
「なにが?」
「ヤクザの娘でも、警察の娘でも。関係ないやろ?」
「いやいや俺そんなにかっこいい奴じゃないだろ」
「かっこいいってより、アホやからな、お前は」
「褒めてねえのかよ謙遜して損したわ」
「お前が損しとんのに俺が得してないんは気に食わんな」
「やかんなやかんな」(やかんなって意味通じるか?)
そんな具合で話は飛んだり跳ねたりして、平常運転で楽しんで、途中から○や×も混じってきて、多分こいつらは将来でも一緒に飲んでんだろうなって思うよ
今日も足が順調に臭いから風呂入ってくるわwww
また後で投下できたらする
続き期待
続き、はよ
静岡県民ではないけど、似た方言でもあったんかな
ではまた
やかんな=やっかむな、かな…?
好きな人に会うために興味の無いカメラを八万で買う
俺なら、アリだな
出来れば、恋敗れたとしても、そのカメラを獲っといて欲しいわ。
いい思い出になりそう。
楽しみにしてます。
やっぱ"やかんな"って解りづらいよな
俺の暮らす地方では"理屈の通ってない事柄で相手に因縁を吹っかける人間"のことを"やから"って言うんだ
だから"やから"がそれをする行為を"やかる"と言う
"やかるな"は非定型で、"やかんな"はそれが崩れた言葉になんのかな
かといってこっちの地方が全員知ってるかと問われたらなんとも言えんけどw
九時以降に投下するから読んでくれてる人はもうちょい待ってな、ありがとう
○否定形
だなww