なんなのまじいきなりさ俺がなにしたって言うんですかいきなりさ!
妄想垂れ流すと規制喰らうんかな……みんな気をつけてな
投下する!
この先に起こった出来事は俺にとって謎ばかりだった
だから逐一突っ込んでしまうと話が進まないので、ここは極端になって説明しよう
見て聞いたことをそのまま、淡々と語ろう
婆が立ち上がって声を張り上げた
「皆の者」
高齢の割にはよく通る声で、無理のない活力を感じさせた
村人の注目は婆に向き、そして婆は二歩前に出た
すると黒服が婆の足元に草履を用意したので、婆は赤い絨毯から草履に足を下ろす
履物を得た婆は大地を歩いてやぐらに近づいていく
それと同時に村人達も簡易の休憩所から出て集まった
誰もが婆に注目した
村長であり、地主であり、村を造った一族の者に注目した
そして、婆は言った
「ご苦労であった」
俺も含めて村人達は祭の準備を労ったと思ったはずだ
だけど婆はこう繋げた
「今日で全てが終える」
「今日は山神祭である。
百年に一度の生贄を捧げ、我等がこの地で生きながらえることを許されるための大切な日である」
婆は舞台を一段、静かに進んだ
「我が一族の上等な血を備えた者もそこにおる。
首を撥ね、血を汲んで、三の地蔵にかければ山神は許すだろう」
婆は再度、舞台を一段静かに進んだ
「否、許されないのだ」
そうして婆はギロチン台に堂々と立って、綺麗な着物を脱ぎ払う
その下に着ていたものは真っ白な――死装束
「許されないのだ」
婆の二度目の呟きに村人達はざわついた
「覚えておるだろうか、皆の者。
我が娘が一族の恥となった日のことを。
そして皆の総意の下、処刑されたあの朝を」
「けど長、ありゃしきたりで!」
村人の一人が堪らず口を開く
それを一睨みで黙らせた婆の意思にたじろいだ
「そのようなしきたりはない。
村から逃げだした者を処刑するなどというしきたりはないのだ。
例え屋敷の一族であろうとも」
その言葉だけを聞けば娘を殺された母親の無念とも取れた
だけど、婆は一粒も涙を流してはいなかった
「そして運の悪いことに総意はしきたりを破ってしまっていた。
解るか?
村に住む全ての者がしきたりを破ったのだ」
村人達が一斉に悲鳴をあげた
慌てふためき始めた村人は右往左往を見渡した
その中に、冷静な老人がいた
老人が付き人のような者になにか囁いた
「そのようなしきたりはない。
しきたりを模造してなにが言いたい」
と、おっしゃられています
付き人は老人の代わりに婆に伝えた
あれ? と俺は思う
てっきりこの村は屋敷の血族が独裁するに成功していると思っていた
でもどうやら一枚岩ではなかったらしい
「逃げ口上も大概にせえよ、○○家よ」
婆は相手の名前を付けてはっきりと嫌悪した
「貴様は山神様にも見られとう。いざこざはあちらでつけようや」
気を抜いていたら小便ちびりそうな迫力の婆
対して老人はひょっひょっとのらりくらりと笑っていた
よくわからんが、深い因縁でもあるんだろう
村人も婆の迫力に飲まれて静まった
いや、どうやら顔を真っ青にして恐怖に打ち震えていたようだった
そこで俺はようやく気づいた
しきたりは絶対
とても重いんだ、この言葉は
「しかし安心せい、皆の者」
婆は真っ白な布を大きく広げる
自分の格好を見ろ、想像しろと言わんばかりに
「山神様はわしの血で許してくださると仰っておる。
わしの血をたっぷりと注ぐことで、制裁はしないと仰っておる。
だから――解ったか?」
視線がぐいっとこちらに向けられた
俺は視線の先を追って黒服を見る
黒服は「ああ」と呟いた
納得したように呆けていた
婆はまだこちらを見ていた
遠目だから断定はできないが、もしかしたら俺も見ていたかもしれない
でもそれ以上にきっと――婆と彼女は別れの言葉を告げていたのかもしれない
婆の説明通り、婆が死ななければ村は救われない
裏返せば婆が生きてる限り村は滅んでしまうので、この村にとって婆の血は絶対だった
しきたり以上に必要な、山神祭の生贄よりも現状に即した、血だった
同時に生贄は役割を果たせなくなっていた
なにせ婆は最初に言ったのだから
もう、許されないと
山神祭はここにきて、百年に一度が狂ってしまった
二十年前の村人の選択が間違いを引き起こして終わってしまっていた
だけどそれならなんだって彼女は――そう考えてしまうのはおかしなことじゃないはずだ
だけど今はそれすらも置いておいて、俺は目に焼きついた情景を吐き出そう
でないと、焼けて溶けて落ちてしまいそうだから
ギロチン台に乗せられた老女に後悔の二文字は見えなかった
年の割には若い活気はその瞳にも間違いなく乗っていた
上げられた刃、待ち構える首
冬の太陽がひっそりと照らす天気だというのに、視界に触れたのは雪だ
彼女にとっての母が死ぬ理由を彼女は理解できているだろうか
ずっと死を考えてきた数カ月がある俺からして、人の死を受け入れるってことは容易じゃない
例えば好きな人が生贄だったとか
仮に好きな人が英雄だったとか
なんにしたって死ななければならないのなら、俺はきっと受け入れられない
在り来たりに選ぶんだろう
世界よりも彼女を、彼女がいる世界を
だけどそれを選ぶことが絶対にできないから死と折り合いをつけるしかない
それでも受け入れられない俺がいて、彼女はどうなんだろうと不安になった
さっきからずっと無表情で、一言も言葉を発さない彼女が心配になった
それでも婆は死んでいく
積もらない雪に冷やされて
暖まらない太陽に照らされて
守ってきた者に死を願われて
誰ひとりとして死を止めようとしない中で
死んでいく
ギロチンの刃
繋がれた縄を引くのは、きっと婆が最も信頼する相手なのだろうと思った
黒服は、婆の合図を待って綱を持ち続けていた
俺は単純で馬鹿だけど、覚悟を決めた人間を見間違うほど馬鹿じゃない
それでも一言だけ伝えたかった
きっと婆にとっては別世界の想いやりに過ぎない言葉を伝えたかった
余計なお世話って奴だったのかもな
近づいて、誰にも聞こえないように言う
「彼女は俺が護ります」
婆はなにも言わずにふんっと鼻を鳴らした
俺は離れて、そして、暫くして――
ごろんと転がったものはもう生きていない
婆の遺言通りに婆の血は三つの器で受けられて、三つの地蔵に注がれた
婆が言うにはこれで山神様は村人達を制裁しないわけだ
「これを村人がどう理解したかは解らないがな」
翌日、黒服に呼ばれた俺は婆の居間にいた
「さっきからなに探してるんだよ」
「奥様の遺言を探している」
「遺言なんてあんの?」
「一応は聞いていた。なにかあった時のためにと」
「なにかって……まあ、なにかあったけどさ」
「本来は違う用途のはずだ」
「○○家の絡みとか?」
「ほう、よく気がついたな」
「いやそれ以外に知らんだけだな」
「それ以外なら国とのいざこざもあるだろう、この村には」
「ああ、そうだっけか」
その時の黒服はあれだな
うん
おこなの? って聞きたいくらいに怒ってた気がする
聞いてたら顔面がまた腫れそうな予感があるけど
婆が座っていた偉ぶった椅子の下から遺言状は見つかった
それは遺言状と呼ぶにはあまりにも悲しい、婆の弱音だった
強いて遺言めいた部分があるとするなら、やっぱり村の行く先についてだろう
山神様は村人を制裁しないだけで許しはしない
つまり、この土地に住まうことを認めないわけだ
となれば村人は外に出るしかない
その手引きやルートを黒服に頼みたいという内容だった
「なあ、不思議なんだけどな。
あの婆さんって山神のこと本当に信じてたのか?」
「せめて婆様と呼べ」
「婆様でいいんかよ」
若く見られたいって言う人じゃないだろうけどさ
「ああ、婆様が山神様を信じていたかどうかか?
信じていないと遺言状にはっきり書いてあるな」
「……だよな」
「考えてみれば、婆様はこの村で最も強く外の世界へ目を向けた方だからな。
村のしきたりや風習に疑問は持っていたのだろう」
「あとそういえばさ、婆様がお前にアイコンタクトした時、なんか頷いてたじゃんか。あれなんだったん?」
「アイコンタクト……あの時か。あれは、そうだな。
そもそもそれを話すにはその前の話をしなければならないな」
「奥様の力によって村は認可が降りて国の一分となったわけだが、それによって起こり得るはずのメリットは、実はあまりなかった」
「え、メリットが大きいとか言ってなかったか?」
「計算上はな。しかし三十年経ってもこの村はなんの進歩もしていない。
医療の発達は確かに大きなメリットだったが、最重要問題であった親類結婚が解消されなかった。
なにせこんな村に外の者が来るはずもないだろう?
かといって村の者は外に出たがらないから、嫁を貰おうにも出会いがない」
「そのため、この村は静かにゆっくりと滅んでいた。
食い止めるには人工の大きな移動が必要であったというのに、断固拒否する村人がいた。
その筆頭が○○家だ」
「なるほど、だから○○家は祭で婆を貶したのか」
「奥様の言うままにしたら村人は村を出なければならないからな。
だが奥様は強引に自分の命を持って場を収めた。
掘り返そうにも死人に口なしだ。
村人は屋敷の者の遺言を信じるだろう」
「ふーん……で、お前はなにに納得したんだ?」
「……奥様はどうやってこの村を救うのだろうと、改善されるのだろうと考えていたからな。
しかし奥様が村を解体するという道を選んでいたというのなら、納得できることは他にもある」
「例えば?」
「気づかなかったのか?
屋敷の人間は奥様とお嬢様しかいない。
しかしお嬢様が生贄になれば未来に村を治める者がいなくなる。
奥様はもう子供を産めるお年ではなかったからな」
「ってことは婆ってだいぶ前から彼女を生贄にさせるつもりなんてなかった、ってことだよな?」
「……どうだろうな」
「なんでだよ。だってそうじゃないと、村を治める者はいないんだろ?」
「例えばの話だが、俺がいる」
「……どういうことだ? 実は血が繋がってましたとか?
あ、いや、村人は全体的に血は濃いんだっけか」
「確かに血は濃いし繋がっているだろうがそういう意味じゃない。
例えで俺を出したのは村の治め方を俺が知っているからだ。
だから別にそれは俺でなくとも、方法を知る者なら誰だっていい」
「でもしきたりがあるんじゃねえの?」
「しきたりを作ったのは屋敷の者と言われている」
「だから屋敷の者がいなくなったら無効って? それはちょっと適当過ぎるだろ」
「ならば屋敷の者がなんらかの事態でいなくなれば、村人はなにもせずに死ぬしかないのか?
違うだろう。新しい秩序を作るしかないだろう、生きるためには」
「今回、奥様が取られた外の世界に行くということも同じことだ。
屋敷の者から国に統治権を移動させた。
これが屋敷の者から別の者へ移るだとしても、生きるためならば許されるだろう。
そもそもしきたりとは、安寧に生きるために作られたものだからな」
「あーっと……うん、なんとなく解った。
じゃあ彼女はどの段階で生贄じゃなくなったんだ?」
「……それは、解らんが。
少なくともお嬢様が外に出ることを許された時にはもう、そのつもりはなかったのだろう。
生贄に外の世界の知識など、不純物極まりない」
「ああ、そうだ。そのお嬢様はどうだ?」
「彼女ならまだ、あのまんまだ」
そうか、と黒服は強く歯ぎしりをした
仮に婆が彼女を生贄にしたくなくて自らが身代わりになったとする
というより、その見方はとても強い
山神様に許して貰うという名目なら当初生贄だった彼女を使うことは間違っていないはずだ
それをあたかも、当時の責任者だからと村人を言いくるめていたけど……それも間違っていないだろうけど
なんにせよ、仮に彼女を救いたかったのなら婆の目論見は失敗した
彼女は救われなかった
もしも彼女を救いたかったのなら、やっぱり生贄教育が問題だったのだろう
「……」
彼女は喋らなくなった
彼女は笑わなくなった
彼女は怒らなくなった
彼女は泣かなくなった
彼女は――魂が抜けた
感情が無くなってしまったというよりは、魂が抜けたというほうが納得できる
そのくらいに彼女はずっとぼうっとしている
彼女にとっての母親が首を落とされた時から、ぼうっと空を見続けている
景色が好きだと言った彼女は、景色のようだった彼女は、遂に景色になってしまった
おはよう、こんにちわ、おやすみ、うへへ襲っちゃうぞ
どんな言葉をかけても彼女は素知らぬ顔だ
「もう生贄じゃないんだから、はっきりと言えるんだけどな」
目の前でそう呟いても彼女の反応はない
つねっても身動きせず、体をずらせば空が見える位置に戻る
眠くなったらその場で寝て、起きたらずっと空を眺め続ける
彼女は大好きな空を見続けた
いつまでも、いつまでも見続けた
いつもの縁側に腰をかけて、来る日も来る日も見続けた
「一緒に生きよう」
彼女に面と向かってそう言いたかったのに、今はもう伝わらない
折角生きられたというのに死んでしまった彼女はいつか息を吹き返すのだろうか?
それから暫くして、黒服は見事村人達を外の世界へ連れて行くことができた
詳しくは知らないが、婆が残した手順によれば村人達はある町で畑仕事をするらしい
黒服の仕事は畑で得た農作物を流通させるなど、とてもまともな経済の分野だった
そのため俺は手伝えそうもない
忘れていたがあいつは俺よりも十歳は年上で大卒なんだ
○○家の老人が付き人を連れて屋敷に来たことがあった
俺に対して怪訝な顔をして、だけどきっぱりと要件を告げた
彼女の血を寄越せ、だと
両手両足使って丁寧に追い返したが、現実を視た婆が死んで夢見る爺が生きてるとは皮肉だよな
そういうもんなんかな、人生って
屋敷の家政婦はまだ屋敷で家政婦をやっている
山神様に怒られるんじゃない? って聞くと
「お嬢様を放っておくことが正しいという山神様は、屋敷の敵です」
と言い放ってた
なんかそういう問題じゃない気がしたけど力強かったし、なにより俺としては有難い
仕事しながら彼女の面倒を見ることは難しいからな
――そう
というわけで、俺は屋敷に住みながら仕事をしている
高速を使って一時間半
片道一時間半の通勤距離といえば、都会ではなくもないらしいな
ともあれ親方に頭を下げて殴られてたんこぶ状態で復帰した俺はまた建築業でえっさらほいさしている
他にできることがないんだからどうしようもない
正直な話、金は予想以上の大金を持っている
持っていると言っても俺が使えない、屋敷の金になるわけだが
流石地主と言うのか、金のインゴッドが蔵にあった
今回、村人を街に移動する際の様々な費用はそこから捻出されている
だから俺が街まで行けば、彼女の医療費や俺と家政婦さんの食費は問題ないのだが、彼女にしてやりたいことがある
彼女と一緒にしたいことがある
そのためには自分で金を稼いで、そのお金で行動したい
その方がなんだか、彼女にしてあげられたって気がするから
今日で終わり?
その日も彼女は縁側に座っていた
いつも通りの佇まいで、空をぼうっと眺め続ける彼女
違う点と言えば腕に刺さった針が彼女に栄養を運んでいるということだけ
彼女の隣に座らせてもらって俺は言う
「一緒に旅をしよう」
彼女は太陽が好きだろう
「綺麗な夕陽とかさ」
彼女は星が好きだろう
「この村より凄い海のような空とかさ」
彼女は空が好きだろう
「七色のカーテンとかさ」
彼女は海が好きだろう
「緑に光る海だとかさ」
「世界中の綺麗な景色を一つ残らず目に焼き付けに行こう。
その時はずっと俺が手を引いて、頑張って色々なことを教えてあげるから。
なんで光るのかとか、なんで暗いのかとか。
それで、そしたら――」
そう、そしたら
瞼を閉じると浮かぶ彼女の笑顔
夕陽をバックに笑っていた等身大の彼女
「――きっとまた、笑ってくれるよな?」
そんな想像を希望に生きていたい
だからこれは、妄想じゃない
俺は小さく深呼吸して、横に座っている彼女を意識する
俺の質問に対して答えは返ってこないけれど、だけど――
振り向いた時に微笑んでくれていたらいいな、と願って
俺は彼女へ向き直る
何度も何度も向き直る
いつか微笑み返してくれる彼女を想って
その答えで納得できるかどうかはわからないし、はたまた答えられない質問とかあるかもしれないwww
まあ質問されようと答えたら全部言い訳だから言い訳臭く聞こえると思うぞ!
それでもいいならどぞ
あと
こんな長ったらしい上に読み辛く、しかも遅延して一ヶ月近く?続いた物を最初から最後まで読んでくれた人へ
ごめんなwwありがと!
暇つぶしになったなら幸いだ
こ、これ精一杯のハッピーエンドなんで許してくださいってか察しろ
面白かったよ
おもしろかったよ
で、どう人生が狂ったの?
・・・言われてみればわからんな!
面白かった!
次のにも期待してます!
最後まで読めてよかった!
ほんとおもしろかった
そして途中で話題に上がった屋敷の血が途絶えるからという言い訳で終わってしまったか
パッピーエンド……ではないが
生きてて良かった
ハッピーねw