キャンプへ行った妻 vol.15

112: 投稿者:不甲斐ない夫 投稿日:2011/11/10 23:32:51

痴情のもつれの果ての殺人事件。
在り来たりな事件ではあるが、金属バットで不倫相手の現役大学生を僕殺したというのは、
いささかインパクトがあったらしく、実況見分のために所轄の警察署から連れ出された時は、
意外と多くのメディアが集まっていた。

もはや、はるか昔の話しではあるが、一時期は、テレビでも騒がれたようだから、記憶の片隅
くらいに残っている人は、まだいるかもしれない。
私に下された判決は、懲役8年の実刑判決。
頭部をバットで破壊した残虐性が争点となり、検察側は、起訴状で12年の実刑を求刑してきたが、
こちらも暴行されたのは事実であり、また偶発的で計画性がなかったことや、それまでの事件に至る
経緯、その背景、そして日頃のまじめな素行ぶりなどが考慮され、裁判では、情状酌量も加わり、
量刑は思ったよりも軽いものにとどまった。

もちろん控訴はせずには、私は、一審の判決を素直に受け入れた。
被害者は、物言わぬ物体となり果て、加害者は、饒舌にありのままを繰り返す。
死人に口なしと言われるが、まさしくその通りで、やりようによっては無罪さえ勝ち取れたのかも
しれないが、私は、そうはしなかった。
サトシが、5人兄妹の長男で、苦学の末に大学に入り、そして年老いた両親の面倒まで、彼がみていた
ことは、起訴が確定して、警察で取り調べを受けている時に、担当した刑事が教えてくれた。
元々身体の弱かった母親は、頼りにしていた息子を突然に失い、悲嘆に暮れるあまり、倒れて入院して
しまったそうだ。
その治療代さえ、まともに払えるかどうかもわからないほどに、サトシの実家の財政状況はひっ迫して
いて、家族にしてみれば、サトシは、たったひとつの希望の星であり、彼らの救世主であった。
その命を奪ってしまった私は、彼らからすれば、やはり許せない存在であるのだろうし、自分としても
罪を償うことで、それなりにけじめをつけたかった。
無論、私とてある意味では被害者であり、サトシがこれまでしてきたことを、双手を挙げて許すつもり
にもなれなかったが、幾ら憤怒に駆られたからとはいえ、奪わなくてもいい命を唐突に奪ってしまった
ことは事実であり、無益な殺生に、後悔していたことも、また確かだった。
あまりにも、多くのものを傷つけ、そして、あまりにも多くのものを失った。
だが、これは地獄の始まりに過ぎず、それからも、私はサトシの残した遺産に苦しめられるのだった。

控訴しない旨を、担当していた国選の弁護士に伝えると、年老いてパッとしない彼は、心なしかホッと
した表情を見せていた。
控訴などすれば、また膨大な時間を事務的作業に費やすことになる。
それを彼は望んでいなかったし、もちろん私も望んでいなかった。
この弁護士が、取り調べもほぼ済んで、後は一審で審理を待つばかりとなった私の元に、一枚の紙を
携えてやってきたのは、事件から3ケ月ほどが過ぎた頃のことだった。
接見室で向き合った被は、「これを奥様から・・」と、さも辛そうな表情を見せて、離婚届を私の前に
差し出した。
その書面には、ぽっかりと空いたような空欄の隣りに、妻の名前と押印がしてあった。
愕然とはしたが、無理からぬ話ではあるから理解もした。
世間の耳目を集めるに十分な、スキャンダラスな不倫殺人事件に、マスコミは容赦なく食らいつき、
加害者家族の人権などそっちのけで、大挙して我が家に押し寄せた。
地元は騒然となり、当然のように家族は、あの家から出ることができなくなって、まだ起訴さえも
されていなかった勾留延長中に、被女たちは、逃げるように何処かへと引っ越した。
それは、この弁護士から聞いて知っていた。
あの日以来、私は、妻と会っていなかったし、彼女の声を聞いてもいなかった。
彼女は、一度として面会にはやってこなかったし、妻のみならず、娘たちも顔を見せることはなかった。
犯罪者となった私の元にやってきたのは、この老弁護士と、やはり年老いた私の両親くらいのものだった。
寂しいとは思ったが、あの惨劇とその後の状況を考えれば、やむを得ないと認めざるを得なかったし、
やはり時間も必要かと思えた。
だから、無理に家族に接見を求めたりはしなかったし、離婚届を突きつけられた時は、さすがに悲しくも
なったが、来るべき時が来たかと、どこかで諦めた気持ちも強かった。
法律上の縁が切れたからといって、娘たちとの血縁までが切れるわけではない。
家族の絆とは、そんなに簡単に断ち切れるものではなく、時間を掛ければ必ず修復できるものだと信じて
いた。
しかし、私の思惑とは裏腹に、妙な知らせが耳に届いたのは、拘置所に収監されてから、一年が経とうと
していた頃だった。
久しぶりに接見にきた両親が、不安げな顔で私に告げてきた。
孫たちと連絡が取れない。
どこにいるのか、わからないというのだ。
逃げるように引っ越したのは、彼らも知っていた。
しかし、その引っ越し先がわからないと、泣きそうな顔で告げるのだった。
何を言っているのか、と叱りつけた。
勾留延長中に引っ越したのだから、妻たちが家を出てから、すでに一年が過ぎようとしていた。
その間、連絡は取り合っていなかったのか?と、私は、睨みながら年老いた母を問い詰めていた。
私の問いに、母は、ばつが悪そうに顔を俯かせ、一度だけ電話で話したことがあるだけで、それ以来、
まったく連絡を取り合っていない、と素直に白状した。
母からしてみれば、妻は、この事件の発端を作った張本人であり、大事な息子の人生を破滅させた
稀代の悪女というわけだった。
たった一度だけ電話をしたというその内容も、母の口ぶりから察する限り、ほとんどが罵倒のように
思われた。
いずれは、確かめればいいとくらいにしか思っていたらしく、私の両親は、妻たちの引っ越し先を、
ずっと確認していなかった。
妻の携帯電話の番号は知っていたから、久しぶりに孫の声を聞きたくなり、電話を掛けてみたのだが、
まったく繋がらないのだという。
それがふた月ほど続き、いよいよおかしいとなって、何か知らないかと、両親は、私の元にやってきた
のだった。
檻の中にいれば時間は止まり、世界も止まる。
彼らに知り得ないことが、囚われの身である私にわかるわけがない。
弁護士に訊いてみろと訪ねさせたが、彼も妻たちの居所については知らなかった。
公訴提起が終わり、公判手続きが始まったばかりで、まだ私の裁判は開かれていなかった。
審理が始まっていないのだから、当然、妻は、証人として喚問される可能性があり、そんな重要な証人
の居所を知らないとは、開いたロが塞がらなかったが、離婚届のやりとりや証言の裏付けは、彼の
事務所で行ったらしく、また、新たな住居として教えられた引っ越し先も、聞いて知っていたから、
すっかりそれを信用しきって安心していたようだった。
しかし、教えられていた住所に、妻たちの姿はなかった。
弁護士の彼は、半年ほど前から、その事態に気付いていたが、最悪のケースを懸念して、それを私に
伏せていた。
つまり最悪、心中の可能性があったわけで、それを知ることによって私の内面に変化が起こることを、
彼は嫌ったのである。
検察側でも、やはり妻の所在を掴んではいなかったが、こういった不倫絡みの事件の場合、どちらかが
雲隠れしてしまうのは、よくあることらしく、捜査初期の段階で、起訴に至るための裏付け証言は、
十分に取ってあったから、さほど重要な証人と位置付けていなかったらしく、たいした問題とも
なっていなかった。
私が、素直に供述を続けたことが、妻の存在を希薄にしていったのである。
事件の発端になった張本人とはいえ、彼女は、殺人そのものには、何ら関係していなかった。
あの現場にさえも、存在していない。
私の供述では、そうなっていた。


サトシを撲殺したあの日、テッペイの配慮で、妻は、うまく逃げおおせることができた。
警察に通報する前に、服を着せて、自宅へと帰したのだ。
ここに女は、いなかった。
いたのは、私とサトシとテッペイの3人だけだ。
不倫が発覚して、サトシと私は、決着を試みることにした。
話し合いの場として、サトシの親友であるテッペイの部屋を借りることになった。
結局、話し合いは平行線を辿ったまま埒があかず、次第に興奮していったふたりは、とうとう最後には、
殴り合いのケンカを始めてしまった。
腕力で勝るサトシは、一方的に私を殴り、血塗れになった私は、恐怖から逃れるために、たまたま
部屋にあったバットでサトシを殴った。
無我夢中でバットを振っていたので、どういった状況でバットがサトシに当たったのかは、わからない。
気が付いたらサトシは死んでいた。
それが、連行されてから、私が警察に話した内容だった。
その供述を裏付けるように、事情聴取に応じたテッペイは、まったく同じことを警察に話した。
茫然自失としている私に代わり、やってきたばかりの警察に些細な状況を説明したのも、また彼だった。
私だけの証言なら信用性はないが、テッペイは、サトシの親友だった。
不倫とはなんの関係もない、部屋を貸しただけの善意の第三者でしかない。
その彼が、証言するならば、それが事実であった。
真実と事実は、また違うものなのだ。
私にすれば、妻を巻き込みたくない思いが強かった。
妻を庇うよりも、子供たちから母親を奪いたくない気持ちが強かった。
子供たちの母親が晒し者にされ、糾弾されるのを恐れた。
元凶ではある。
夫の目の前で性交に及び、痴態を見せつけた挙げ句、逆上した夫が、不倫相手を撲殺した。
ありのままに全容を明かせば、これまで悪辣な手段で玩具にされてきた人妻たちとの関わりや、
多くの学生たちの悪行までが、すべて暴露することになる。
複雑な人間関係は憶測を呼び、邪推が生まれて、ことによっては、妻は共犯と見なされ、
犯罪の計画性さえ疑われてもおかしくはなかった。
そんなことになれば、妻は、おいそれと警察からは解放されないだろう。
それが私には、怖かった。
逡巡はあったが、テッペイの
「大丈夫ですよ。奥さんのことは心配しないでください。
僕の言うとおりにやれば、奥さんが捕まることはありませんから。」
の「捕まる」一言が、私に決断させた。
やはり子供たちから、母親は奪えない。
テッペイとシュンのふたりにしたところで、今までの悪事が露見すれば、一生を棒に振りかねなかった。
煩わしい揉め事には、巻き込まれたくないのが、本音のところだったろう。
善意の第三者でいる限りは、彼らが肩入れしてきた悪行の数々は露見しないし、警察の手も及ばない
ことになる。
私と彼らの利害は一致した。
我々は、口裏を合わせて、事実の隠蔽を図ったのだ。
テッペイは、実に落ち着いていた。
証言と状況が整合するように、裸だったサトシに服を着せ、それまでの性行為などなかったかのように、
妻の痕跡を手早く消し去っていった。
頭にバットが刺さったままだったサトシに、いかにも乱闘した後のようにシャツを引き裂き、
それを羽織らせた。
濡れたタオルでペニスを丁寧に拭いさえしたのは、解剖を考えたからに違いない。
さらに家宅捜索まで視野に入れて、大量にあったDVDや撮影機材を段ボールに詰めて、
それをシュンと着替え終えて、顔を青ざめさせていただけの妻に運ばせた。
見事に理詰めの状況を作り終えてから、4人は、口裏を合わせ、妻は、シュンとマンションを抜け出すと、
自宅へと逃げ帰ったのだった。
警察へは、テッペイが通報した。
そこまでに要した時間は、1時間も掛からなかった。
実に手際がよかった。
まるで、そうなることを予測していたかのようだった。
そうだ・・・。
奴は、予測していたのだ。
そうなることを予測していたから、そんなことができた。
殺人事件の現場なのだ。
目の前には、潰れたトマトのようにグシャグシャになった親友の頭がある。
本当なら、狼狽え、脅え、錯乱するのが、人間の性というものだ。
だが、奴はそうはならなかった。
シュンもだ。
ふたりには、あらかじめ、私がサトシを殺すであろうことがわかっていた。
だから、狼狽えがなかった。
私が、」サトシに殺意を向けるであろうことを知っていた。
いや、期待し、そのように誘導したのだ。
テーブルの上には、無造作にナイフがあった。
転がされていたすぐ横には、金属製のバットが立て掛けられていた。
あの臆病で腰抜けのサトシが、それらを使って私に襲いかかってくるとは、到底思えない。
状況を作ったのだ。
殺人を期待できる状況を作り上げ、奴は、巧みにそこへと私を誘導したのだ。
リビングに入った時は、サトシの背中は、確かに私の前にあった。
だから、私の後頭部をサトシが殴れるはずがない。
シュンは、殴っても蹴ってもいないと言っていた。
それが本当であるならば、では、いったい誰が私を殴ったのだ?
テッペイは、突然サトシに反目すると、おもむろに私に近づいてきて、縄を解いた。
縄を解くことで、サトシが孤立し、仲間がいないことを、暗に私に教えてくれた。
仲間がいなくなれば、反撃に転じるのは道理だ。
邪魔をする者がいないのだから、一対一の勝負に持ち込むことができる。
腕力では五分五分かもしれないが、道具があれば、はるかに勝てる確率も高くなる。
殺傷能力の高い武器であるなら尚更のことだ。
それは、私のごく身近なところに置いてあった。
当然のように手に取った。
怒りは頂点に達している。
目の前で妻を弄ばれた。
あの子たちの母親をメスブタと呼んだ。
人様の女房の中に無造作に吐き出し、こともあろうか、その陵辱の証を、夫の顔の上にぶち撒けた。
殺されたところで仕方がない。
人間を狂気に変えても仕方がないことを、サトシはしたのだ。
バットを握っていても、それを凶器とは思わなかった。
正義の鉄槌を下すための刃だと思った。
正義は我にあった。
だから、悠々と大きく振り上げた。
かつてない力を感じていた。
一刀両断に切り落とすように振り下ろしていた。
手応えはなかった。
手のひらには、何も感じたりしなかった。
気が付けば、サトシは眼球が飛び出し、脳みそが飛び散るほどに、頭が真っ二つになっていた。
やっと、害虫を駆除した。
あの時の私は、心底血に染まるサトシを見つめながら、そう思っていた。
しかし、サトシは害虫ではない。
人間だ。
親も兄妹もいる、人そのものだ。
熱があり、情があった。
決して虫などではない。
私は、誰かにサトシが虫だと思い込まされたのだ。
サトシを害虫だと思い込まされ、この手で駆除するように仕向けられた。
それは、私の身近なところにいた。
そして、そいつを後ろで操っていた奴が、確かにいた。

初犯で模範囚ということもあり、刑期は1年短縮されて、私は7年で出てくることができた。
未決勾留期間も合算されるので、ちょうど7年が経っていた。
監房の中で、天井を見上げながら、日々考えていたのは、やはり、家族のことだった。
失われた家族は、まだ見つからず、どこで何をしているのか、まったくわかりもしなかった。
それにしても、なぜ妻は、あれほどに豹変し、私を裏切ることになったのか、
考えれば、考えるほどわからなかった。
しかし、考え抜いた挙げ句、最後に、辿り着いた答えは、しごく簡単なものだった。
おそらく、彼女の浮気には、私の存在など関与していない。
妻は、彼女の事情で、そうならざるを得なかった。
ただ、それだけだ。
そして、その答えが正解であるのを裏付けるように、出所してすぐに、
沢渡というジャーナリストが、私の元を訪れた。




引用元サイト:
官能小説の館|ナンネット
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