区切りがついたので話させてください。
下半身が寒い
女子のスカート丈も膝くらいか少し上か。
男子も見てわかるほどあからさまにズボンをずらしてる奴もおらず
勉強にも部活にもまじめな奴が多くてすごしやすい環境だった。
高校一年生の夏ごろ一度女の子と付き合ったがすぐ別れて。
あとは特に変わったことなくサッカーに打ち込み友達と遊び、無難に一年を過ごした。
進路相談の末俺は理系クラスに行くことに。
高2、高3の二年間をそのクラスで過ごすことになる。
陽気だが風はまだ冷たい4月1日、
俺は新しい環境への期待に胸を膨らませていた。
勉強しないとな。部活だって好きだから頑張る。恋愛だって久しぶりにしたい。
いろんなことに対してやる気が満ち溢れていた。
一年の秋から冬頃、誰がどのクラスに行くのか噂が回っていたため
クラスのメンツには予想はついていて、知り合いがいないとわかっていた。
わりと人見知りするタイプなので打ち解けられるか、
これから先仲良くやっていけるか・・・やる気もあったが、そんな不安もあった。
軽く背伸びをして微妙に中の様子を確認していたら
「あれ…1?お前も8組なの?」
知っている声に振り返ると、Aが立っていた。
Aとは一年のとき合同体育で知り合って少し仲良くなった。
「え?あ、おお。Aも8組?」
久しぶりに話す気まずさを感じて、動揺しながら聞いた。
「うん。久しぶりだな~。中はいんねーの?」
Aは俺とは違って微塵も気まずさを感じていなそうだった。
8組の様子をきょろきょろと見ながら不思議そうにAが言う。
よかった。Aがいた。安心した。
「いま入ろうとしてたとこ」
緊張して二の足踏んでたくせにそう言って教室のドアを開けた。
Aは俺の前の席に座った。
「なんか、理系クラスだけあって男多いな~」
Aが頬杖をついてクラスを見ながら言った。
机の横のフックに鞄を掛けながら俺も見た。
確かに、いまクラスにいる人数のざっと8割が男。
「あー…そうだな。でもまあ、まだ来てないだけかもよ」
俺がそういうと、まあな、とAがぼーっと遠くを見ながら答えた。
俺はそんなAを一瞥して、何をしてもさまになるなイケメンは。と思った。
一年の時から、クラスは違えどAの噂はよく耳にしていた。
3組のバスケ部のイケメン。クラスの女子が騒いでいた。
こりゃモテるわなと少し劣等感を感じて、そんなこと考えてんなよと自己嫌悪した。
ほどなくしてクラスメイトが集まり、担任がクラスに入ってきた。
白衣を着た化学教師で、やたらに落ち着いていて、遠くを見て話をする人だった。
たまにジョークを交えて生徒を笑わせるが本人は一切笑わなかった。
恒例の一言自己紹介を経て、顔見知り程度だが知っているやつが何人か居たこと、
男女の比率はだいたい7:3くらいだったことがわかった。
担任が気を利かして「一時間後またくるから」と教室を出てから
みんなゆるゆると周りに話しかけ、よろしくと交わしていた。
そのあと書き溜め分投下します。
地味にワロタ
投下します。皆さんありがとうございます!
俺もなんとなくAと一緒によろしく、と言っていた。
1年の時からAは気さくな奴で、友達も多く、ある程度の距離からみてではあるが欠点のひとつもなかった。
俺はと言えば普通の中の普通で、コミュ力もそう高くなく、友達も多くはない。
一通り声をかけ終えたので席に座って、クラスメイトと談笑するAを横目に
配布されたプリントを眺めて4月の予定を確認した。
高校二年生の記念すべき一日目は、
ちょっと期待していた一目ぼれをしたわけでもなく、
それこそ無難に幕を閉じた。
ちょっと抜けていていじられキャラのCの計4人で行動することが多くなった。
行動といっても昼飯を一緒に食べる程度だけど。
Bは4人の中で一番背が低いが声は一番でかい。
基本的に単語、もしくは短文で話していた。
「1!飯!行くぞ!」
「腹減った!パン食お!」
あんまり人の話を聞いてないやつで、たまにいらっとさせられるが素直ないい奴。
Cは優しかった。シャイでいろいろ鈍感で、へえ、が口癖。
無口とまではいかないが基本的に聞きに徹するタイプだった。
イベントの多い4月は足早に過ぎて行き、
俺以外の3人が人見知りをしないお陰ですぐに打ち解け、
馬鹿な事をしたりして楽しい生活を送っていた。
二時間目の休み時間、見慣れない女子が教室に入ってきて、教室は少し硬い空気に包まれた。
その女子はうつむき加減に教卓の席順表を確認して、廊下側の一番後ろの席に座った。
「…あれ、Sさん?」
「っぽいな」
Aの問いかけに、だと思う、と続けた。
4月の間一度も来なかったクラスメイトのSさん。
ちょっとからだを壊していたかなんだかでずっと休んでいた彼女が登校してきた。
肩までの黒髪ボブで、細くて、色の白い女の子だった。
クラスの女子が2、3人駆け寄って話しかけていた。
Sさんは少し困惑したような顔で、でもはにかみながら何か頷いていた。
落ち着いてきていたクラスに小さな波がおこったようで、俺含め皆新鮮な気持ちで彼女を見ていた。
休み時間はクラスメイトと話していたこともあったけれど、基本的にいなかった。
人伝いに聞いた話では体調ももうすっかり良いとのことで、その証拠に体育も休まず出席していた。
AもBも軽く話したと言っていて、俺も話しかけてみようかと思ったけれど、
なんて声をかければいいのかわからないし、話も続かないだろうし、
いつか機会があればと思いあえて話しかけにはいかないことにした。
中靴が廊下とすれてきゅっきゅと音を立てる。
雨が降る放課後、日の当らない廊下を一人で歩いていた。
AとBはバスケ部、Cは弓道部なので3人とも中で部活があったが
サッカー部の俺は練習がなく、ひとり帰ろうとしていたときだった。
黄色い蛍光灯の灯った図書室に、見慣れた顔があった。俺は思わず足をとめた。
Sさんだった。
うちの学校には図書室が3つある。
なかでも一番小さい古びた図書室に彼女はいた。
なにやら単行本を何冊か抱え、開いてはチェックし、本棚に戻している。
ちょっと迷いながらも、今しかないと思った。
えっと、というあたり意気地のなさがにじみ出ている。
少し緊張しながら図書室の扉から声をかけた。
扉に背を向けていたSさんがうわっと言って本を抱きしめ振り向いた。
「びっくりした…1くんか」
目を白黒させて俺を見るなり肩の力を抜いた。
図書室は少し湿っぽくて、古い紙とインクの匂いがした。
「Sさん、図書委員だっけ?」
「うん」
初めて話すせいか緊張してSさんの目を上手く見れなくて
図書室を見渡すことで誤魔化していた。
「ここ、人くる?」
中央図書室あるし、と続けた。
3つの図書室の中でダントツで大きい図書室で日当たりも品ぞろえも良い。
ほとんど行ったことないけど。
へえ、とだけ返した。
Sさんは手に抱えていた本を移す作業を再開した。
さくさくと片付けて全部終わったら手をはたいてまた振り返った。
そしてこっちに歩み寄ってきた。
「初めて話すよね。Sです。よろしく」
お辞儀をして、よく見るあの困ったようなはにかんだ笑顔でそう言った。
すっきりとした目をしていて長いまつげととがった八重歯が特徴的だった。
「1です。よろしく」
俺もかしこまってお辞儀をした。
顔をあげると、笑ってるSさんと目が合って
なんだかよくわからないけど少し恥ずかしくなってすぐに目をそらした。
休み時間はこの図書室によく来ること。(委員の仕事のため)
歩いて通学していること、生まれは東北で、一人っ子。
犬を飼っていること、など知った。
彼女はよく笑った。
引っ込み思案であまり笑わない子なのだろうと勝手なイメージを持っていたので意外だった。
『Sさん』というぼやけた存在が、俺の中で、一人の女の子として輪郭をもちだした。
もっと知りたいと思った。もっと話してもっと仲良くなりたいと思った。
たぶん、純粋に彼女に興味を持ったからだった。
夕飯食べてまた続き書きます。
見て下さってる方、ありがとうございます。
まだまだ長くなりそうですがお付き合いいただけると幸いです。
乙
楽しみにしているよ
ありがとう。
その日を境に俺はたびたび彼女と話をした。
あいさつから始まり、何気ない話をして、ものの貸し借りもした。
彼女から借りたCDはスピッツのアルバムで、全部好きだけど、スパイダーが特に良いと言っていた。
まだまだ距離はあったけど、純粋に、仲良くなれてきていることが嬉しかった。
「なあ!最近どうしたのよ!」
俺が借りたCDを鞄の中にしまっていると、
鼻息荒くにやにやしているBと目が合った。
「なにが?」
「それ!CD!」
「貸してもらっただけ」
「うっそだね。好きなんだろ?Sさんのこと!」
Bは俺の前の席に座りながらそう耳打ちした。
そして、最近仲いいしさ~あやしいと思ってたんだよなあ~と続ける。
「そういうわけじゃないって!」
「俺も好きなのかと思ってたわ」
俺の横でしゃがんで、Aがそう言った。
そして、いいじゃねーかSさん。と俺の背中を軽くたたいた。
「ほんとに違うんだって。ともだちだよ、ともだち」
恋愛感情をもちこむと、Sさんを遠ざけてしまう、
この心地よい関係が壊れてしまうんじゃないかと思った。
俺の頑なな否定っぷりになんだ、とつまらなさそうにBが言った。
そしてBは自分の話をし始めた。
なんでも、最近好きな子ができたらしい(本人はまだわからないと言っていたが)。
すぐに分かった。同じクラスのTさんだ。
Tさんは真っすぐで曲がったことが大嫌いな、どちらかと言えば気の強い女の子。
背は低めで、かわいらしい顔とその性格にギャップがあった。
Bと馬が合うようでよく話して笑っているのを見かける。
すぐさまAがTさんだろ、と指摘して、俺も頷いた。
Bはなんでわかったんだと驚いて、そんなにわかりやすかったのかと気にしていた。
普段うるさくてはしゃいでるBが小声で好きな子の話をしていることに少し笑えた。
トイレから戻ってきたCが落ち込んでいるBを見て困惑した顔でどうしたのか尋ねる。
俺とAはBに聞いてみとにやにやしながら答えた。
ちょっと外に出ていました。
皆さんありがとうございます。
書くの遅いですが、お付き合い下さい。
だいぶクラスも打ち解けて、まとまりがでてきた。
この頃から夏休み明けの体育祭、文化祭をどうするかという話が上がっていた。
うちの学校は、イベントは基本的にクラス対抗で行う。
九月の中旬に三日間にわたりイベントをする。
一日目が体育祭、二日目、三日目が文化祭である。
体育祭の準備といえば、クラスでオリジナルTシャツや応援旗を作るくらいだが
文化祭の準備は大変だった。どんな模擬店を出すか、材料も買わないといけないし、
それに合わせて衣装や看板も作らなければならない。
毎日LHRで話し合いが続いた。
まずクラスを体育祭担当と文化祭担当にわけ、それぞれ同時進行で行き、
体育祭担当の仕事が終われば文化祭の準備を手伝うという方針になった。
AとBは体育祭担当、俺とCは文化祭担当に振り分けられた。
クラスの中心であるTさんとBは体育祭の実行委員になっていた。
これはAのちょっとした策略の結果。
Sさんは、俺やCと同じく文化祭担当だった。
紆余曲折あってメイドカフェに決定。
ただし男子が女装するという奇天烈なものだった。
そしてそうこうしている間に学期末テストがやってくる。
テストの前の週は、一度Sさんと二人で数学の勉強をした。
古汚い図書室で灰色の絨毯の上に座ってもくもくと。
お互い特に教えあうこともなくひたすら解くだけだったけど。
カチカチとSさんのシャーペンの花のチャームが音を立てる。
Sさんは集中していたけど俺はなんかそわそわしていて
でもそんなところ見せられないしで真面目に取り組もうと
姿勢を変えたり座りなおしたりしていた。
Sさんは授業中に眼鏡をかける。
でもこのときだけはかけていなかった。
単純に気になった俺は、Sさんに尋ねた。
「眼鏡かけてなかったっけ」
Sさんは空返事をして、もくもくと答案を作り続ける。
しまった邪魔をしたかと俺もそれ以上何もいわずテキストに向かった。
ちなみにこのとき使っていた参考書は青チャート。
「忘れたの」
ひたすら解答と照らし合わせて考えているとき返事が返ってきた。
え?と、Sさんの方を向くと、くいっと眼鏡をあげるポーズをして笑った。
シャーペンについたチャームをぶんぶん回しながら、
ないと不便だなあ、と言ってまた勉強を始める。
俺は両目裸眼で視力が良いため、その不便さはわからない。
なんとなく、Sさんが大人っぽく見えて俺も眼鏡かけようかなとかばかなことを考えていた。
テスト期間、Aの家で4人で勉強していた時だった。
図書室でのことを3人に話すと、Bが声をあげた。
ああ!もう!と両手で顔を覆ってじたばたする。
「ふたりっきりだったんだろ!?なんで!?」
と大げさに詰め寄ってくる。
俺もちらっと考えた。聞こうかなと。
でも、そんなことしたらそれこそ好きだって認めることになるし
下心見えてたらSさんに引かれそうだし引かれたら終わりだし。
「お前こそTさんの連絡先知ってんの?」
見かねたAが助け舟を出してくれた。
BはAの言葉にばつが悪そうに視線を泳がせた。
「…まだ」
急に声が小さくなるB。
Tさんのこととなるとすぐ弱気になる。
「なんでだよ。実行委員同士ならいるだろ?」
「タ、タイミングってもんがあるんだよ!聞きづらいんだって!」
Aは間をおいて、はあ、とため息をついた。
俺とBは何も言えず小さくなるだけだった。
俺Sさんの連絡先知ってるよ」
Cが、もくもくとテキストを解きながら言った。
3人で目を丸くする。
なんでも、CとSさんは同じ中学校に通っていたらしい。
なんで言わなかったと詰め寄るBにCはこういうことになってるのを知らなかったからだと答えた。
Cから教えてもらおうぜと意気込むBに俺は
「いいわ、大丈夫」
とわけのわからない返事をした。
もし聞くなら自分で聞くつもりだった。
少し意地を張っていたのもあるけれど。
いつもの落ち着いたトーンで話すと
AもBもCもそれ以上は何も言わなくなった。
BとTさんはクラスメイトにデザインしてもらった原画を持って
Tシャツを作りに行き、残りの体育祭班が自由に応援旗を作っていた。
そこでもAは舵を取っていてみんなから慕われていた。
文化祭班はまず必要なものをリストアップして、と
地味な作業から取り組み始めた。どこで買うと安くすむか頭をひねった。
結局、最初に誰かが提案した、学校の近くの卸売店で買うことになった。
ある程度方針が決まると今度は衣装作りに取り掛かり始めた。
生地を買って、寸法を測ってとすべて女子が担当してくれて
男どもは叱られながらメジャーに巻かれた。
「1。気をつけして」
Jさんが言う。俺ははい、と言って椅子から立ち上がった。
メジャーで首回りや胴回りを測られて、ああ、俺もメイド服着るのかと落胆した。
「よし。オッケー」
Jさんはそう言って満足そうに笑った。
>>1とSさん
純愛
文化祭展開くる!?
さんくす
不服気にJさんに尋ねた。
メイド服は全員が着るわけじゃない。
クラスのだいたい3分の1程度で、あとは着ぐるみだったり
まあ制服にエプロンだけの手抜きだったりするのだ。
「もちろん」
何やら布に印をつけながらJさんは返した。
俺は小さくため息をついた。
Jさんとは中学が同じだった。
2年の時に一度クラスが一緒になって結構話もした。
背が高くてすらっとしていて、美人。どちらかと言えば男っぽい性格をしていたが
仕草や声がかわいらしかった。声については本人のコンプレックスでもあったようだった。
裁縫が得意なJさんが中心となって衣装作りが行われた。
教室で控えめにお菓子を広げて、音楽をかけて楽しく縫っていた。
俺は奥で控えめに裁縫しているSさんを盗み見た。
茶色い縁の眼鏡をかけて真剣に針をさしていた。
釘を使うので作業は外で行う。
ちょっとトイレ、と校舎の中に入った時だった。
ばったりSさんとはち合わせた。おお、とSさんが笑う。
眼鏡がなくなったかわりに青いタオルを首から下げていた。
ちょうど、立て看板の様子を見に来たらしい。
「順調?」
と背伸びして顎をあげて立て看板の出来を見ようとする。
俺も振り返って確認した。まだまだ、模造紙の大きさを決めている段階だった。
「そっちは?」
今度は俺が尋ねた。
Sさんは、順調だよと目じりを下げて、歯を見せて笑った。
ほんの少し立ち話をしていると、Jさんが降りてきた。
Jさんも、看板の様子を見に来たらしい。Sさんを見て少し目を丸くした。
順調?と、JさんはSさんと同じ質問をした。
俺は見ての通りだと言わんばかりに看板を振り返った。
Jさんは、作業風景を見て、暑そうだなと眉を潜めていた。
「じゃあ、私はそろそろ戻るね」
振り返ると、先にあがってるねとJさんに。
俺には、がんばって、と言ってSさんは階段を駆け上がった。
Sさんは宮崎あおい系統の顔
黒髪で肩くらいまでの長さ、身長は普通くらい
Tさんはあえていうなら雰囲気大島優子みたいな感じ。
ちょっと焦げ茶のロングでちっちゃい
Jさんはなんとなく昔の飯島圭織に似てるかも。
黒髪ロングですらっとして背が高い。
少し窺うようにそーっとJさんが俺に聞く。
慌てて、いや、いやいやいや、とあからさまに否定すると
そんなに言わなくてもとJさんは呆れたように笑った。
そして口もとを手で覆ってにやけながら言った。
「でも、好きなんだ?」
「ちがう」
脊髄反射で即答した。
「いいって。嘘つかない嘘つかない」
見てて分かるし、とJさんは続けた。
俺はそんな見てたのか。確かに見てたかもと自問自答して項垂れた。
もう、否定しても聞かないだろうと諦めているとCがきた。
「トイレどんだけ長いのかと思ったら」
と笑って言った。ごめん、すぐ行くわと返してCの頭から足先まで見た。
「あはは、びしょびしょ」
濡れたシャツを摘まんで、俺が言う前にCが言った。
いくらなんでもここまで汗はかかんだろと作業場を見ると
ホースを持ってじゃれるクラスメイトがいた。どいつもこいつも水浸しだ。
模造紙や板、ペンキなどの道具ちゃっかり安全圏に移動させてあった。
「うわっ!なにやってんの?」
Jさんが、ばかだなと笑いながら窓から作業場を見る。
そんなに濡れてどうやって帰んのと楽しそうに。
暑いから、そんな奇行に走ったんだと暴れるホースを追いかけるクラスメイト。
俺も混ざりたくなってCと走って作業場に戻った。
後々同じく教室で作業していた体育祭班の男も噂を聞きつけ参戦。
職員室から担任に叱られたのは言うまでもなかった。
明日は一日予定があるので、更新は隙があればちょいちょい不定期に、
なければ夜に少しだけすると思います。おやすみなさい。
作業をしているうちに、どんどんクラスメイトと仲良くなった。
Tさんともそれなりに話すようになったが、急速に仲良くなったのはJさん。
というのも隙あらばこっそり冷やかしてくるから。
Jさんはその性格からABCとも仲がよかった。
Sさんと俺は相変わらずで、たまに俺が自転車をおして、
家の近くまで送ったりする仲になっていた。
でも、ここまでしても不思議と彼女から脈を感じなかった。
一枚壁を作られている、そんな気がしていた。
ある日、Bが、皆で遊びに行こうと言った。
AもBもCも、TさんもJさんも賛成した。
Aが、誘えよSさん、と耳打ちしてきた。
ああ、三人が俺を見兼ねて企画してくれたんだな、そう思った。
あんなに否定していたのに、いつからか、好きだと認めていた。
直接口に出したことはなかったけど、俺はSさんが好き、
それが仲間内では当たり前のようになっていた。
ありがたい気持ちとそっとしておいて欲しい気持ちが混ざって
なんだかもやもやとしていた。不安だった。
俺は準備の帰り道、Sさんを送っていた。
「あのさ」
「んー?」
夏の夕暮れ、気持ちいい風が吹いていた。
きれいな赤とオレンジに包まれていた。
鳥の鳴き声やどこかの家の夕食の匂いがしていた。
Sさんは荷物を俺の自転車のかごにいれて、
生えてる道草を足で軽く蹴りながら歩いた。
帰り道はいつもそれほど会話はなかった。
俺は息を吸い込んだ。
「みんなでさ、遊びに行かん?」
できるだけ軽く言った。
内心はど緊張だった。
だって、学校の外で会うのは初めてだから。
中で会おう、と誘うのとわけが違うんだ。
Sさんは下を向いて落ちていた髪を耳にかけた。
その横顔は、少し何かを考えているように見えた。
俺もからからとついていた自転車を止めた。
「いいね~。いつ?」
Sさんが笑顔で問う。
俺はどっと緊張からとけて、肩の力が一気に抜けた。
からからと自転車をついてSさんの横に並んで止まった。
「今週の土曜日」
足下の、アスファルトの隙間から生えた雑草を見ながら言った。
黒い影が先の方までずっと伸びている。二つ並んでいる。
「わかった。あけとくね」
Sさんの言葉に俺は顔をあげた。
眉を下げて、笑うSさんと目が合った。
胸の奥がざわざわとして、きゅっと萎む感覚がした。
後から、じわじわ滲むように喜びが押し寄せた。
俺は慌ててSさんから目を逸らして足下に目線を落とす。
Sさんの茶色いローファーがすぐ近くにある。
道路に散らばった砂利を蹴った。
悟られないように、ん、とだけ返事をした。
今週の土曜日が楽しみだ。
歩き始める。
頬が緩みそうになるのを手の甲で隠して、噛み締めた。
今日は眠れないかもしれないなと、浮かれた気分だった。
保守、ありがとうございました。
家に着いたので続き書きます!
待ってたで!
玄関の靴もちゃんと揃えたし、お風呂だって無言で磨いた。
何でもやってあげたくなった。浮かれていたから。
どういう風の吹き回しかと家族は困惑していた。
我ながら単純だなと思う。
Sさんから了承を得たとABCJに伝えると、
みんな自分のことのように、むしろそれ以上に喜んでくれた。
「よっしゃあああ!どこ行く!?どこ行く!?」
椅子に足をのせてガッツポーズをして、
Bは浮かれ調子でキョロキョロと皆を見た。
「海じゃね?」
夏だしなあ、とAが続ける。
「海!いいねえ!海!」
Bのテンションが天井知らずで手を叩いて喜ぶ。
Aが机の上で汗をかいているスプラウトのペットボトルを掴み、ぐいっと飲んだ。
机の上に広がったドーナツ型の水たまりを指でならしながら、
「だったら川がいいよ」
電車で行ける距離にあるし、とJが言った。
木陰もあって涼めるし人も比較的少なめだ、と。
あ~、なるほどなと男子陣が声をあげる。
「てかTさんとSさんには聞かなくていいのかよ?」
ハッとしたようにAが俺とBを見ながら言った。
「決まったら言ってくれって」
昨日、Sさんが別れ際そう言ったことを告げた。
あの時の何とも言えない気持ちが蘇って、俺はまた浮かれた。
「Tも遊べるならどこでもいいってさ~」
Bは少し気まずそうにそう言った。
Bは、Jが自分の気持ちを知らないと思っているので
Aが自分にTのことを尋ねたことでバレやしないかとヒヤヒヤしているのだ。
Jはとくに気にもとめず、くるくると机の上の水溜りをのばしている。
残念ながらすでにバレバレだった。
俺たちは川案に対して歯切れの悪い返事をしていた。
Jは、どこでもいいけどさ、と言った。そして
「近くにログハウスあるし、BBQもできるけどね」
と続けた。
俺たちの目はあからさまに輝いた。
そこがいいそこがいい!!最高じゃん!とBが立ち上がる。
花火も持って行こう!な?とキョロキョロ皆を見た。
全員が川案に賛成した。
場所は電車で1時間ほどの距離にある川。
11時からで、星も見たいし1泊するのはどうだという話になった。
俺はさっそく明日、Sさんに言ってみるわと立ち上がった。
AとJは、まだ連絡先聞いてなかったのかよと呆れた。
「クラスメイトで、そんなに仲良くて、知らない方が不自然だから」
とJは俺の胸元を指差して語気をつよめて言った。
「まあ、さすがに土曜には聞くだろ」
とAがスプラウトを飲んで口を拭いながら言う。
Bはもうその話題については触れなかった。
「まあ、そのうちな」
俺は苦笑いしながら言った。
慎重になりすぎるのもよくない。分かっている。
でも、ゆっくりと距離を詰めたかった。
下手に近づきすぎると彼女が遠くなる気がした。
恋愛感情を挟むと今までのように接してくれない気がした。
せっかくここまで仲良くなれたのに壊したくなかったのだ。
そんなのは言い訳。それも分かっていた。
連絡先を聞くだけでここまで考える俺はただの臆病者だなあと
考えるのに疲れて、他人事のように思っていた。
泊まりは無理なので終電には帰ってよいかと言われた。
冷静に考えると、そりゃそうだよなと考えなおし、
全員終電で帰ることにした。Bが少し残念そうにしていた。
待ちに待った土曜日。
俺は寝坊することなく時間通りに起きた。
浮ついたまま顔を洗って、歯を磨いて、朝食を食べて、
服を着替えて、髪をセットした。
お気に入りの白いTシャツに紺色のデニムを履いて、スニーカーに足を入れた。
ウエストポーチを斜めにかける。胸でカチッと音を立てた。
玄関の扉をあけると白い光と夏の熱気と蝉の鳴き声が一気に押し寄せた。
俺は私服のSさんを想像した。
どんな格好で来るだろう。初めて見る。
歩きながら緩みそうになる口元を手で覆った。
暑さとかもう、どうでもよかった。かかって来いって気分だった。
会うまでのこの時間をたっぷり味わいたい。
好きな人を待つ時間って、すげえなあと感心した。
電車に揺られること20分。Sさんが乗車してくる駅だ。
俺は動く電車の中からSさんの姿を探した。
あれか? ちがう。
あれ? ちがう。
何度かそんなことを繰り返していると、
電車は乗客を乗せて発車した。
落胆した。ちがう車両に乗りこんだのだろうか。
俺は前の車両を背伸びして覗き込んだ。
「あの、1くん?」
反射的に振り返った。
後から思考と感情が追い付いてくる。Sさんだ、と。
俺には青春の「せ」の字もなかったぜ!
甘い、甘いぜええええええええ!!!!!!!!
>>100
100おめでとう。
読んでくれてありがとう。
おうよ
最近嫌なことづくしでイライラするわ
でもこう言う話聞くとあったまる
俺が100取ったことも気がつかなかった
ありがとう 保守
保守ありがとう。続き書きます。
白のデニムの短パン、サンダルというラフな格好だった。
茶色い革の鞄を肩から下げ、手には麦わら帽子があった。
俺は抑えることを忘れて思わず上から下まで見てしまって、
ハッと我に返り、おはよう、と慌てて言った。
Sさんはあの困ったような笑顔でおはよう、と返した。
どこを見ればいいのかわからなかった。
目を見ればいいんだろうけど、それもできない。
何を話せばいいのかわからなかった。
暑いねでも何でもいいのにそれもできない。
うわあうわあ、と頭の中が軽くパニックで、かつてない緊張だった。
かわいい。
すごくかわいい。
もう一度ちらっと見ると、
Sさんは携帯をチェックしていた。
鎖骨にのった細いチェーンのシルバーのアクセサリーが
制服からは出せない大人っぽさを引き出していた。
ああ、もうだめだ、俺。
自分のへたれ具合に頭を抱えたくなる。呆れる。本当に。
そんなことを考えていると少し冷静になれた。
「たぶん、みんな次の次の次くらいの駅で乗ってくる」
そんなことを言って鼻の頭をかいた。
Sさんは、笑って頷いた。
楽しみだ
たまらんですね。
こんな青春したい
明日、朝早いので今日はもう寝ます。
明日も一日用事があるので、
今日同様空いてる時間に更新できそうであればします。
帰ってからも時間を見て少しだけ、更新する予定です。
全レスしてないけど、見てるよ、等のレス頂くと背中を押してもらってる気分です。ありがとう。
あと>>110がツボに入って苦しいです。不意打ちは駄目っすよ。
おやすみなさい
今日も一日お付き合いくださった方、ありがとうございました。
明日楽しみにしてるからな!
規制がかかって書き込みできませんでした…。
お待たせしてすいません。
少しだけ更新します。
Aは薄いベージュのTシャツにデニムで、Bは白いTシャツに膝下くらいのズボン。
Tさんは、グレーのパーカーに白いデニムの短パンという出で立ち。
勘違いして別の車両に乗っていたCとJとは川の最寄りの駅で落ち合った。
Cは黒いTシャツに、やっぱりデニムを履いている。
Jはシンプルに白いTシャツに細身のデニムという出で立ち。
俺を見るなり、かぶってんじゃん、と言って頭を小突かれた。
駅から徒歩20分くらいのところにあるはずだった。
「まだかよ~」
と、Bが大げさに気だるそうに歩く。
かれこれ50分ほど歩いていた。みごとに迷ったみたいだった。
「みんな疲れてんの!ちゃんと歩け!」
TさんがBの背中をはたいて、背中を押して無理やり進ませる。
Bがちゃんと歩くから、と急に早足になって先陣を切る。
Tさんは待って待ってと駆け足になって追いかける。
ついてこいよ、待ってよ、とじゃれて笑う2人。
そんな様子を黙って見ながら俺たちは後ろを歩いた。
よくそんな元気あるわ、というJのボヤきにも誰も反応しないほどだった。
今日も空き時間と夜に更新します。
親切なおじさんが紙に地図を描いて説明してくれたおかげで、
俺たちはなんとかログハウスがある辺りに辿り着くことができた。
Bが予約していた◯◯ですけど、と受付所のようなところで話を通したところ、
コンロの使用方法は、利用前に説明するとのことだった。
(BBQの具材はそちらで用意してもらっている)
安心した俺たちはさっそく近くの川で遊ぼうということになった。
そのときにはもう、みんな疲れなんて消え去っていた。
ログハウスの裏に流れる川へ我先にと走った。
川辺にかばんやくつを放り投げて
Bが川に飛び込み、皆に水をかける。
JとTが一緒になってBを突き飛ばす。
AとCはもっと上流に行ってみようぜと川辺を歩く。
俺はSさんの動向を気にしながら大きな岩に登ったり、
澄んだ水をすくいあげて真上に飛ばしたりしていた。
Sさんはひとり、キョロキョロと辺りを見渡して
そーっと川に近付きしゃがみこんで石を投げたりしていた。
近くのコンビニで買った弁当をみんなで食べた。
川魚を手でとろうとしたり、
きれいな石を探してみたり。
久しぶりに生で触れる自然に夢中になった。
純粋に楽しかった。
時間を忘れて遊んだ。
疲れるまで笑った。
ある程度遊んで、弾けた俺たちは倒れこむように川辺に寝転んだ。
日が落ちる前の、夕暮れの空を満たされた気持ちで見ていた。
夜になるのが寂しいと思った。
もう、こんな時間か、と。
BBQのあと、花火やろうぜ、とAがつぶやいた。
いいね、と全員が賛同する。
みんな目線は空だった。
川の流れる音と、風邪で木の葉が揺れる音にみんなしばらく耳を傾けていた。
みんな帰りたくないなあと思っているような気がした。
気を抜けばうとうとと眠りに落ちる寸前だった。
バッと急にBが起き上がる。
全員の視線が集中した。
Bは大きく伸びをして、
腹減った!
と川に向かって声をあげた。
Bにのって、みんな目が覚めたように体を起こしてぐっと伸びをする。
じゃんけんで負けたおれとBが花火を買いに行くことになり、あとの五人に夕飯のしたくを頼んだ。
灯りがともり始めた。
気温が落ち着いてきた。
セミの鳴き声も消えつつあった。
段々、着実に近付く夜に、静かに高揚していた。
高校生の俺たちにとって、みんなで、俺たちだけで一緒にいられる夜は特別だったのだ。
川辺の石ころのせいで足下がおぼつかないが、なぜかそれすら愛しいと思った。
俺たちは輝いていた
すんません佳代子からまた呼び出しです
また来ます
誰だよww
たしかに
で誰
土地勘が全くないせいで迷いそうになりながら。
でも、なんとか辿り着き、数パック花火を買った。
ロケ花やろうぜ!ネズミ花火も!とBはなんでもかごにいれていった。
帰り道、もう既に日は沈んでいた。
人気はなく、道なりに灯った街灯がずっと先まで等間隔にあった。
「あのさ~」
返事の代わりにとなりで歩くBを見た。
Bが腕を回して蚊に刺された場所をチェックしながら言った。
「俺告白しよっかなーって」
思ってんだよなぁ、と何ともなさげに言った。
そっか、と返して、俺はまた前を見た。
そろそろ告白するかなと予想はしていたから、驚かなかった。
そのくらい二人は仲がよかった。
気温がぐっとさがってくれたおかげで、気持ちいい風が吹いていた。
Bは思いっきり息を吸い込んで、ゆっくりと吐いた。
緊張してんだなあ。
と思った。がんばれよ、と思った。
その後は会話がなかった。
黙っている方がBのメンタルを整えられるだろうと思った。
佳代子って誰や
最近佳代子いろんなところで名前でるなおい
みんな座って談笑しながら俺たちの帰りを待っていた。
肉やら魚介類やら野菜やら、締めのそばまで人数分用意されていた。
「おかえりなさーい」
Sさんが俺たちに気付いて言う。
「そんなに買ってきたの?」
Jが花火の袋を見て呆れたように笑った。
どさっと足下に花火を置いて、うまそうだなと言うと、
「腹減ったーーー!食おうぜ!!」
とBがテンションを上げて紙皿とはしをとる。
AとCが、教わった通りに炭をいれ、新聞を置き、チャッカマンで火を付けた。
おお、とみんな声をあげる。
わくわくしていた。
Bはいつ言うんだろう。
今も緊張しているのだろうか。
はやくはやく、と誰よりもはしゃいでいるB。
その斜め前で火が着くのを今か今かと楽しそうに待つTさん。
二人を盗み見ると俺が緊張した。
こっそり、上手くいきますようにと願った。
皆で談笑しているところをひとりトイレにたった。
用をたして外に出て、ふと気づいた。
星がたくさん見える。
星座なんてわからないけど
すげえなあ、とひとり感動した。
ぼんやり上を向いたまま今日一日を振り返った。
会った瞬間私服に感動して、
気の利いた言葉ひとつも言えなかった。
皆で話して皆で笑って皆仲良く楽しかった。
忘れられない一日だ。
それで終わり?
なんの進展もないじゃないか。
Bが今日告白すると言った。
俺は?
せめて連絡先くらい聞きたい。
へたれるのもいい加減にしろ。
そのくらい言えるだろ、俺。
奮い立たせる。
俺からなにかアクションを起こさないと進展はない。
今日、会ってすぐSさんが見せた、あの困ったような笑顔を思い出した。
戻ったら、連絡先を聞こう。
想像するだけで息がつまりそうだ。
もしも距離をはかられたらどうするんだと考える。
でも、Bなんて告白するんだぞと自分に言う。
それに比べれば小さいことだった。
今日を逃せば次はない、そんな気がした。
雑念を消すように大きく息を吸い込んで、吐いた。
駆け足でみんなのところへ戻った。
戻ると、Bが買ってきた花火を両手に掴んでそう言った。
川で水をすくい、バケツにくむ。
そして全員が花火を持ち、チャッカマンで火をつけた。
バチバチと音を立てて色鮮やかな光が走る。
振り回して遊ぶBをJが叱咤する。
はしゃいで叫び回るBたちを岩に座って見ながら、花火を楽しんでいると、
「うーっす」
Aが10本ほど未使用の花火を掴んでやってきた。
にやりと笑って俺のとなりにしゃがみ込む。
ジャリ、と小石がぶつかる音がした。
「おー」
俺は花火の光を見つめながら返した。
「どーよ」
Aは、落ち着いた声色でシンプルに聞いた。
もちろん、Sさんのことだった。
俺は背筋をぐっと伸ばして、息を吐きながら言った。
「なにもない」
Aは鼻で笑って川に石を投げた。
小さな水しぶきが上がる。
花火の熱で石を焼いた。
近いのに、遠くではしゃいでる声がする。
俺はSさんの姿を探した。
Tさんと笑いながら話をしている。
花火の光に照らされた笑顔を見て気が重くなった。
「アドレスは、聞くつもり。今日」
Sさんから目をそらして言った。
ちょうど花火が切れて暗闇になる。
Aが一本、チャッカマンで火をつけた。
ジュワッと燃える音がして緑の光につつまれる。
「おー」
Aが相槌をうって、火のついた花火を俺に渡して笑った。がんばれよ、と言う。
ありがとうと言う代わりに笑い返した。
俺は立ち上がり、Sさんのところへ向かった。
一歩一歩進ごとに足が重くなる。
ジャリジャリ、と小石が削れる音にTさんが顔をあげた。
「おお!1くん!」
その声にSさんも顔を上げ、そして微笑んだ。
それだけで心拍数が上がった。
俺はしゃがみ込むTさんのとなりに立って、くるくると花火を回した。
「なに話してた?」
俺の問いかけに、TさんとSさんが顔を見合わせる。
「恋バナ」
Tさんが振り返り、にっと笑いながら答えた。
予想外の返事だった。
「え?好きな人いんの?」
思わず、思ったままを口に出した。
Tさんは小首を傾げて、目を細めて幸せそうに笑った。
Sさんは下を向いていてその表情はとれないが、
どうやら、二人とも居るみたいだった。
俺は連絡先を聞こうと意気込んできたことがすっかり抜け落ちて、
何も言えずに、ゆっくりその場にしゃがみ込んだ。
Tさんがぼんやり前を見ながら言った。
視線を辿るとそこにはBとJがいた。
ああ、Tさんは俺の気持ち知らないんだな。
そう思うと何も言えなかった。
Tさんは膝に顔を埋めた。
どうしようかなあ、と力なくつぶやく。
俺はそんな彼女を見た後、もう一度目線を戻した。
やっぱり、BとJが馬鹿みたいに楽しそうに花火を向けて遊んでいる。
馬鹿野郎。何やってんだお前は、と心の中でBを叱咤した。
ふう、とTさんが顔を上げる。
「駄目なんだよなあ、わたし」
力の抜けた笑顔でTさんは言った。
いつも憎まれ口ばかりきいてしまうこと、
可愛らしく、女の子らしくできないこと、
本当は素直になりたいということ
ぽつぽつと話した。
「あー!ダメだ!わたしなんか変なの!」
突然大きな声を出して髪をくしゃくしゃにしながら、また膝に顔を埋めた。
「こんなんじゃ好きになってくれない」
膝を抱えて小さくなりながらTさんは言った。
そんな彼女を見て、俺とSさんは顔を見合わせて笑った。
たぶん、同じことを考えていた。
BはとっくにTさんのことが好き。
気付いてないのはTさんくらいだ。と。
俺はにやけてしまうのを抑えて言った。
SさんはTさんの背中をさする。
「やだ。無理。」
顔をあげずにきっぱりとTさんは言った。
むず痒い。いっそのこと、
Bはお前のこと好きだぞと言ってしまいたくなったけど、
それはBの口から言うべきだと自分を抑えた。
「はよ行ってこいって」
Tさんの背中を軽く叩いた。
やっとのこさのっそりと顔を上げたTさんはじとーっとBを見た。
その目にはたっぷりヤキモチが込められていた。
そのとき、ばちっとTさんとBの目が合った。
Tさんも俺もSさんも、思わず、あ、と声が漏れた。
「T!遊ぼうぜ!」
Bが満面の笑みで花火を振り回してTさんに手招きする。
どうしよう。どうしよう。と狼狽えるTさんを二人で無理やり押し出した。
いつもうっとおしいくらい仲良くしてるくせに、と笑って見送る。
足取り重そうに歩きだすTさん。
Bは俺に目配せをした。
あいつは、俺に助け舟を出したつもりだったらしい。
俺は笑って手を合わせて礼を言った。
こけそうになっているTさんを見て笑いが込み上げる。
お互いだけが何も知らなかった。
Sさんが目を細めて笑った。
目線の先にはふざけるBにツンケンしているTさん。それを見て笑うJ。
「だなー」
俺も笑って答えた。
今日、カップルが誕生するといいな。
穏やかな気持ちで二人を見ていた。
「1くんはいないの?」
俺は思わずSさんを振り返った。
小首を傾げて興味深気に聞く。
俺は目を逸らした。
なんだか、居ても立ってもいられないような、何とも言えない焦燥感に駆られた。
「わからん」
いるよ、と言いたかった。
それでも、そう答えた。
Sさんの無邪気な目が苦しかった。
「Sさんは?」
俺は相変わらず馬鹿をやっている三人を見ながら聞いた。
意識は完全にSさんに向いている。
「わたしもわからないなあ」
少し間を置いて、息を吐くように言った。
顔は見れなかったけど、想像はついた。
きっとまたあの困ったような笑顔で笑っている。
俺は石の上に寝転んだ。
ゴツゴツとした小石があたって痛い。俺は寝返りをうった。
真上に広がる星空をぼんやり眺めた。今度は特に感動しなかった。
「中学の時、好きな人がいたの」
絞り出すような声でSさんが言った。
それ以上は聞きたくなかった。
喉の奥が絞られるように苦しくなった。
心のどこかでそんな予感がしていた。
SさんはCが好きだった。
⊂⌒~⊃。Д。)⊃
まだわからんぞ!!!!
頭の隅にはそんな予感が巣食っていた。
まだまだガキな俺は、傷つけないように言わないでおこうとしてくれたCの優しさを、受け取れなかった。
俺はCに頼らず自分で聞くと意固地になっていた。
最もらしい理由を並べたが単にCに頼るのが嫌だと思ったからだ。
奥底にはそんなどろどろとした気持ちがあった。
今日だって、今までだって、二人は不自然なほど、必要事項しか話さなかった。
いま、Cは無邪気にAと花火を楽しんでいた。
俺は黙って頷いた。
Sさんの小さなため息が聞こえる。
大きく息を吸い込んだ。目をつむった。
気を抜けば何か壊してしまう気がした。
どこかでわかってはいたのに、
どうして、なんで、とどうしようもない言葉が駆け回った。
Sさんは長いことずっと、Cのことを好きだったようだ。
現に今だって、わからないと答えるほど、断ち切れていない。
「高2になって、また同じクラスになるとは思わなかった」
困ったように笑う。
今にも泣き出しそうな声だった。
「Cは、いいやつだもんな」
俺は絞り出した声でゆっくり言った。
本心だった。
本心なだけに、言うのがとても苦しかった。
ぼんやり空を眺めながら、
びっくりするほど軽い口調で言った。
何を言ってんだ俺は。そう思っても歯止めが聞かない。
口先だけで話していた。
言えばいいのに。
もったいない。
応援する。
言葉にもないことばかり口をついて出た。
投げやりになっていた。
Sさんは、ずっと黙っていた。
不思議なくらい静かだった。
胸が苦しかった。
今まで何度か恋愛してきたけれど、
ここまで喪失感を覚えたのは初めてだった。
心のどこかでSさんを自分のものにしていたのかもしれないなと思った。
誰のものでもないのに。
俺のもののはずがないのに。
石を掴んで真上に軽く投げた。
キャッチすることを辞めた。
行くあてなく、石は腹の上に落ちる。
ぶつけることこできない行き場のない色んな感情が、
消化できずに俺の中に積もっていった。
>>1はなかなかやるな
何も言わずに膝を抱えて、ぼんやりと石を見つめるSさん。
そんなSさんに背を向けて石の上に転がる俺。
もういっそ言ってしまおうか。
きっとその方が楽だ。
そんな考えが駆け巡って俺は唾を飲み込んだ。
喉まででかかっていた。
けれど、あと一歩のとこで飲み込んでしまった。
「本当にそう思ってる?」
そのとき、蚊のなくような声でSさんが言った。
俺は思わずえ?と、聞き返した。
Sさんは、まくし立てるように言った。
その目には涙がうっすら浮かんでいた。
「本当にそう思ってる?
最低限の話しかしないんだよ?
メールだって全然しない。
目だってそんなに合わない。
そんな状況で、言えばって?
振られればいいって思ってる?」
最後の方はかすれていた。
俺の投げやりな態度を感じて
Sさんは苦しそうにそういった。
情けないことに、俺は言葉に詰まった。
ただ一言ちがう、言いすぎた、ごめん、と言えばいいだけなのに。
Sさんは、しばらく俺の言葉を待ったが、
ぎゅっと目をつむった後、チカラが抜けたように笑った。
「変なこと言ってごめんね。
1くんは何も悪くないのに」
Sさんは苦しそうに笑ってそういって、立ち上がり、
ズボンや足についたホコリをはらい、そのまま立ち去った。
本当に書くの遅くてすいません。
レス下さる方、遅くまで見て下さる方、ありがとうございます。
明日も引き続き、空いてる時間に更新します。
最後に、かよこって誰っすかw
おやすみなさい。
我慢できないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
お疲れ!!
待ってる~
追いかけろ、と自分に言い聞かせたけれど体が動こうとしなかった。
追いかけても、何も言えないだろう。
振られると分かって言うことなんてできなかった。
なんでこんなことになったんだっけ。
あーあ。好きなのに。
めちゃくちゃ好きなのに。
手足を投げ出して、ぼんやりと色んなことを断片的に考えた。
相手がCなら勝ち目ねえなあ。
あいつ、いいやつだし。
紳士だし。イケメンだし。
何より優しい。
考えているとより胸をかきむしり
たくなる衝動にかられた。
いっそCが嫌なやつだったらよかったのに。
そしたらもうちょっと、楽だったのに。
大きくため息をついた。
やるせない気持ちがぐずぐずしている。
へたれな自分が腹立たしかった。
上からJが呆れた顔で覗き込む。
ばちっと目があって、俺は寝返りをうった。
「べっつにー」
ふざけていった。
「別にじゃないよ。S、涙目だし。あんたなにしたの」
Jが俺の横に座り込んだ。
これは徹底的に聞かれるな、と思った。
「Sさんの恋路応援しただけ」
息を吐きながら言った。
Jは意外と、何も言わなかった。
全部理解したのか、あえてきかないようにしたのか。
「涼しいね」
Jが言った。
俺は黙って頷いた。
「BとTは付き合ったよ」
視線の先には二人がいた。
ぎゃんぎゃんとTが泣いていて、Bが狼狽えているのが見えた。
「諦めんなよ」
Jがひとりごとのように言った。
お願いだから、と続ける。
Jは無言で立ち上がる。
おれは思わずその表情を探ろうとした。
笑っていた。
「あんた、次S泣かしたらしばくから」
そう言ってJはSさんの後を追った。
ぶるぶると頭を振った。
「1」
振り返るとAが立っていた。
Jに頼まれた、と言って俺の隣に座る。
「言ったのか?」
「何も言ってないけど振られた」
Aの問いに俺は笑ってそういった。
中学の時の話だろ、とAは言った。
俺はとなりのAを見た。無表情で、少し怒っているようにも見えた。
「知ってたのかよ」
「今日Cから聞いた」
こっちにきて、上流まで二人で歩いていた時だった。
「昔の話じゃん」
Aは言った。
「Sさんは昔のことにできてねえんだよ」
俺は両手で顔をこすって、
大きくため息をついた。
Aは黙り込んだ。
水の流れる音がよく聞こえる。
「俺、元カノのこと好きなんだよ」
初めて聞く、Aの過去だった。
中学のとき、近所のお姉さんのことが好きで、告白して、二ヶ月ほど付き合って別れたらしい。
短い間しか一緒にいれなかったけど、今でもその人が忘れられないと。
どおりで、誰から告白されようと答えなかったわけだった。
Aはずっと、ひとりで想いを抱え込んでいた。
「俺は、そろそろ新しく誰か見ないといけないんだよ」
AはSさんに自分を重ねていた。
いつまでも昔の恋愛に縛られていても仕方がないんだとAは言った。
お前が全部上書きしてやればいいんだよと言った。
俺はずっと黙って聞いていた。
何も言えなかった。
俺はSさんのことが好きで、
SさんはCのことが好きで。
俺とCは友達で。
頭でっかちに考えていた。
Sさんの傷付いたような困った笑顔を思い出した。
Aは痺れを切らして俺の肩を軽く殴った。
「はやく行けよ。あいつら裏に行ったから」
ありがとう、とAに言うと、にやっと笑った。
意外なAの過去を聞いて、なんだか前よりもっと仲良くなれた気がした。
俺は川辺を歩いて、BBQをしたログハウスの辺りに向かった。
ザッザッと靴が石に埋まる。
鼻の頭を軽くかいた。
何て話せばいいのかわからない。
でも、行かないと駄目だ。
でないと後悔することになる。
自分の気持ちは既に固まっていた。
今だから思う。
Sさんが教室に入ってきたあの日から
俺は彼女のことを気にかけていた。
自覚のない一目惚れだった。
Cはいい奴だよ。
すごくすごくいい奴。
それは事実。
だけど、恥ずかしいけど、
俺以上にSさんのこと好きな奴はいないと思う。
これも事実。
そんなことを考えているとだんだん何か腹の底から込み上げてくるものがあった。
はにかんだ笑顔とか八重歯とか細いチェーンのネックレスとか
誰にでも優しいところとかちょっと気まぐれなところとか
意外と積極的でよく笑うところとか
なんかもう全部思い出す。
なんかもう、全部好きだ。
俺はSさんの仕草や返事ひとつで
舞い上がったり落ち込んだりする。
靴を並べたり、にやける口元を隠したり、八つ当たりしたり。
馬鹿みたいなことを毎日繰り返す。
なんだか、笑えてきた。
自分がすごく滑稽に思えた。
落ち込んでたことなんて忘れてしまった。
Sさんのことが好きな自分に自信を持ち始めていた。
ログハウスの玄関に続く階段に二人は座っていた。
ハンカチを握ったSさんは下を向いている。
JはSさんの背中に手を置いてじっと地面を見つめていた。
その光景を見て、足が止まった。
罪悪感と後悔が波のように押し寄せる。
頭の奥がざわっとして、変な汗をかいた。
一歩、踏み出す。
ジャリっと音がして、Jが俺に気付いた。
Jは一度Sさんを見て、立ち上がり、俺のもとまで歩いてきた。
「おっそいわバカ」
腕を組んで軽く睨みつけられる。
ごめん、と言う前にJは優しく笑った。
去り際に、がんばれ、と肩をパンチされる。
俺はあわててありがとな!とJの背中に声をかけた。
Jは振り返ってもう一度笑った。
前を向くと、依然として下を向いたままのSさんがいた。
俺はまた一歩一歩と彼女に近付いた。
音に気がついたSさんが顔をあげる。
目が合うと、一瞬、ぐっと肩に力が入っていた。
「となりいい?」
こくんと頷くSさん。
その目は少しだけ充血していた。
俺は生唾を飲み込んで、ゆっくりとなりに座った。
俺は、タイミングをはかって息を吸い込んだ。
「さっきは、ごめん」
掠れた声が出た。
緊張で胸がざわざわした。
口の中がカラカラに乾く。
「なんていうか、あんなこと言うつもりはなくて、」
しどろもどろになる。
Sさんはずっと黙ってしたを向いている。
「無神経だったなあって、思うし、なんていうか、うん。最低だったな、俺。」
徐々に落ちついてくる。
近くの川の水音が聞こえる。
ばれないように深呼吸した。
「ちょっとびっくりしたんだ。
Cと仲いいしさ、俺」
そこまで言って、ごめんなさい、と頭を下げた。
Sさんはゆっくりと顔を上げる。
ハンカチで口元を抑えて窺うように俺を見ている。
「もう泣かせたりしないから」
掠れた声で、もう一度頭を下げて言った。
次Sを泣かしたらしばく、と言ったJの顔が頭によぎる。
ぎゅっと膝の上で拳を握った。
「顔上げて」
Sさんは小さな声で言った。
なぜか久しぶりにSさんの声を聞いた気がした。
「わたしの方こそごめんね」
1くんは悪くないの、わたしが八つ当たりしたから、と彼女は言った。
俺が、そんなことはないと言おうと口を開けたとき、
「これで終わり。仲直りしよう!」
Sさんが俺の方に向き直り、満面の笑みでそう言った。
あの大きくて尖った八重歯が見える。
Sさんは手を差し出した。
どうやら握手を求めているようだった。
俺が戸惑っていると、ぶんぶんと振って急かす。
そっと手を差し出すと少し冷えた小さな手に触れた。
「仲直りの握手」
Sさんはそう言って俺の手を握った。
冷たい。柔らかい。小さい。
そんな感想が頭を巡った。
いつも通りの笑顔のSさんをみると
じわじわと腹の底から愛しさが込み上げた。
仲直りできた喜びもあいまって、
腕を引っ張って抱きしめたくなる衝動を必死で堪えた。
はい、っと手を離すとSさんは立ち上がった。
俺は彼女を見上げた。
「もう泣かせないでね」
Sさんはしたり顔で笑った。
この言葉が印象的だったらしい。
そして俺の先を歩いて、みんながいる川辺に二人で戻った。
春なんでやることがたくさん。
思い出しながら書くだけで若返った気がしますね。
恥ずかしいわー。恥ずかしいわー。
会話は、だいたいこんなこと言ってたなっていう感じで
書いているので完璧な再現ではありません。
あと、実はこれでもだいぶ端折ってます。笑
文才もないし書くの遅いし読みにくいしですいません。
もう少し話は続きますがお付き合い下さると幸いです。
いつも保守ありがとう。
いいなあ青春いいなあ
保守
ほしゆ
なんか純粋に一生懸命だったなあとw
皆さん支援ありがとうございます。
今ちょっと手が離せないので、
夜の23時頃に更新します。
キターーー
楽しみにしてる!
ヤッッッタァァァァ
これだけ支援レスで伸びた責任を取るべきだぞ!
早くしろ! 青春の「せ」の字もなかった俺に、いいお話を……。
興味がないとでも言うように川原で遊んでいる。
俺はCを見た。
1人寝そべってぼんやりと空を見ている。
何も考えていないのか、考えているのか。
毎日を笑顔で過ごしているCのそんな表情は新鮮だった。
だから、俺は少し動揺した。
中学の頃はどんな奴だったんだろう。
勝手に今と変わりないだろうと思っていたけれど。
そして俺はJと談笑しているSさんを見た。
数年前、二人に何かあったんだろうか。
Sさんはどんな風にCを好きなんだろう。
そこに入り込む余地はあるのだろうか。
俺より関係が長い二人。
二人しか知らないことがある。
俺には超えることのできない何かが確かにあった。
過ごした時間という決定的な差に落ち込む。
そもそもCはどう思っているのだろう。
俺に負い目を感じていたらどうしよう。
そのせいでCが素っ気ない態度をとるのか。
そのせいで、二人がくっつかないのか。
色んなことを考えた。
SさんはCが好き。
CもSさんが好き。
二人を見ているとそんな気になった。
そしてはたからみれば、俺は邪魔者。
いっぱいいっぱいで周りを見れていなかった。
そうと決まったわけでもないのに、
恥ずかしさと後悔と申し訳ない気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合った。
罪悪感に頭を抱える。
俺は、
奇跡的に振り向いてくれることを願うしかないのか。
そうか。
そっか。
あからさまにもできない。
思えば今までだってそうだった。
隠しきれていなかったけど、
隠そうとしていたじゃないか。
今まで通りの関係でいい。
仲良くできればいい。
何も変わらない。
それでいい。
そうすれば失うものはない。
あわよくば一番の友達になれれば。
俯いていた顔を上げた。
誰かを傷つけることの罪悪感で、自分が傷つくのが怖かった。
意気地なしの俺は生温かい場所を探した。
心がなかなかついてこない。
『そっとしておく』ことが俺にとっても、
誰にとっても一番の正解なんだと思った。
上書きしなくてもいい。
Cが振り向けばその必要もない。
傷つけた奴にしか癒せないものがあるんだ。
そう考える裏で、
俺が先に彼女と知り合っていたら、と考える。
自分が汚く思えた。
好きな子と友達、大事な二人の幸せを心から願えないなんて。
『願おうとしている』に過ぎなかった。
それでも、ひたすらに思った。
そうすればいつか本当に願える日がくると思えたから。
考えると分からなくなった。
友達のままでいよう。
二人の幸せを願おう。
振り向いてくれたら。
俺が先に出会っていたら。
整理のつかない心を悟られないように、
俺は積極的に皆に絡んでいった。
祝福だと言ってBを道連れに川に飛び込む。
派手な音をたてて、皆で大きな声で笑った。
浮かれて、決心して、焦って。
悲しんで、喜んで、また悲しんで。
自分の感情に振り回される。
いついつどんな時もSさんのことばかり。
この時、どんな感情も切なさを孕んでいた。
花火のあとの火薬のにおいが、不思議と夏の終わりを思わせた。
お盆前のことだった。
昨日は遅れた上に少ししか更新できなくてすみませんでした。
今日はいつもより少し多めに更新するつもりです。
いつも保守ありがとう。
楽しみに待ってるぜ
ありがとう。
そんな一日を終えると、すぐにお盆を迎えた。
Sさんは母方の祖父母の居る東北へ帰省。
他のみんなも各々家庭で過ごしている。
三日目の昼間にAから連絡があった。
夜、話そうぜ。
と。
寝っころがって携帯の画面を見つめる。
無表情で打った。「わかった」と。
何も考えていないつもりだが、最近ため息が絶えない。
気付けばぼんやりとしていて、知らぬ間にため息をついている。
机の上に放り出した青チャート。
課題が手に付かない。
またひとつため息をついた。
茶色い眼鏡や、花のチャームを思い出してしまう。
かき消すように頭を振った。
汗をかいたグラスに入った麦茶を一気に飲み干して、
いっそ寝てやろうと体制をつくるとすぐに寝入った。
辺りは既に日が落ち始めていた。
あわてて時間を確認して、
母のAくん来てるわよという声に返事をして階段を駆け下りた。
玄関に腰掛けて、携帯をいじるAの背中に
「ごめん、寝てた」
と急いで声をかけた。
Aはおう、と返事をして携帯を閉じ、立ちたがる。
俺は居間に向っていってくると声を張り、そそくさと家を出た。
外は夜に近づいているにもかかわらずまとわりつくような湿気と生温かさに包まれていていた。
「よく覚えてたな、俺んチ」
「不安だったけど意外とたどり着けたわ」
そう笑いながらAは言った。
Aは夏休み前に二度俺の家の前まで来たことがあった。
それにしてもAの家からそんなに近くないのに、
ここまで足を運んでもらって、申し訳ないなと思った。
田舎ゆえ車がなかなか通らない大通り。
シャッターの下りた店が並ぶ寂れた商店街。
広い道にでると風通しがよくなった。
Aも俺もほとんど何も話さなかった。
携帯をチェックすると数件メールがきていて、
そのうち二件がAからのものだった。
どうする?
お前んチいくわ
再び申し訳なく思って、メールを今みたと伝えて謝ると
Aは寝すぎだと笑って許してくれた。
いいやつだな。
嫌味のひとつも言わない。
Aのすっきりと鼻筋の通った横顔を一瞥してまた少し劣等感にかられた。
同時にこんなAが、忘れられない人ってどんな人なんだろう、と思った。
やっぱり美人で性格も頭も良いパーフェクトな人間なんだろうか。
そんな好奇心で胸をいっぱいにしていると、
ほどなくして公園についた。
お盆なだけあって人がいない。
がらんとして、まさに空っぽの公園だ。
二人して決まったことのように公園の隅にある
古びて錆び付いた低いブランコに腰かけた。
軋んだ音を立てる。
ゆらゆらと控えめに揺られながらAの言葉を待った。
Aは足を伸ばしてじっと地面を見つめていた。
変に緊張した俺はブランコに勤しむ。
風が吹くと木が葉をこすりあわせた音がした。
そのくらい静かだった。
唐突にそう言って、Aはブランコをこいで、
逆に俺が漕ぐのを辞めて地面に足をつけた。
「例の近所のお姉さん?」
Aの『踏み込んではいけないライン』を探りながら控えめに聞いた。
Aはたっぷりの間をとった。
その間が重くて切ない。
口に出すのを躊躇ってしまうほど好きなんだなと、思った。
「うん、その人」
Aは息を吸い込んでわざとらしい明るい声で言った。
ほしゅ
よろしくお願いします
誰かいたら始めようと思ってます
見てる人いますか?
すんませんまた佳代子から呼び出しです
また来ます
ただいま帰りました。
お待たせしてすいません。
明日は休みなので時間が許す限り書こうと思います。
いつも保守ありがとう。
あと佳代子のくだりなんですが、元ネタなんなんですかね(笑)
いろんなスレで佳代子みるぞ
保守
これかwww
ありがとう。すっきりしたw
Yさんというその人は教育実習で秋から俺たちの学校にやってくる。
1年生に配属されるらしい。
「もう関係ないけどな。ちょっと、動揺した」
息を吐きながらそう言って、両手で顔をこする。
そしてすう、と大きく息を吸って、もう一度吐いた。
こんなAを見るのは初めてだった。
弱点がなくて、いつも笑っていて、余裕そうに見えるAが。
俺は動揺しながらベストな言葉を頭の中で探した。
こういう時って何て言えばいいんだろう。えっと、えっと。
情けないことに、俺は気の利いた言葉が思いつかなかった。
いつも助けられているのに。
「そっか」
いっぱいいっぱいで絞り出した言葉だった。
Aは息を吐いて、顔を覆っていた手で膝を叩いた。
パシッという小気味のいい音が鳴った。
「おう」
二カッと歯を見せて笑う。
痛々しくて胸が苦しくなった。
この話はやめようとAが言う。俺への気遣いだった。
無理させてごめん、何も言えなくてごめんと心の中で謝り、同時に自分の無力さを責めた。
Aが言った。
多分Sさんに謝りに行った時のことだろう。
俺は地面を軽く蹴ってブランコをこいだ。
涼しい風が吹いて、さらさらと葉っぱが揺れた。
「謝ったよ」
足を振って大きくブランコを揺らす。
小さなブランコはすぐに限界値まで振れた。
Aも俺に負けじとブランコを揺らす。
長い脚が不便そうだった。
「言った?」
「何を」
「好きだって。」
ブランコが今にもひっくり返りそうになって漕ぐのをやめた。
大きく風が吹いて、ざわざわと木が揺れる。
揺れが落ち着いて俺は地面に足をつけた。
ずるずると土と足が擦れる音がする。
「言ってない」
俺はそう続けた。
部活帰りの学生が自転車で公園の横を通りすぎて行く。
俺はまた地面を蹴ってブランコを漕ぎ出した。
「そっか」
Aはそう言ってブランコから降りた。
そして板に足をかけて立って漕ぎ出す。
「お前がそれでいいならいいけど」
努力するよ。と答えると、Aは笑った。
それから俺たちは一通りブランコで遊び、コンビニでアイスを買って俺の家まで歩いた。
酉頼むは
お待たせしてすいません。
お昼間はちょくちょく更新して夕方には張り付くよ!
トリできてるかな。
ぐぐって出てきたからAUTO
まじですか…
これでどうだ
おk
帰り際Aが言った。
「Cとちゃんと話せよ」
俺はうなずいて手を振った。
盆が明けてまた作業が始まればCと話そう。
そういえばCと二人で話をしたことがなかった。
Aと話をしたおかげで少し気が楽になった俺は
かじったままの問題集をやろうと椅子に座った。
やっぱり反射的に色々思い出したが、振り払ってペンを動かす。
一問解けると、のめりこむように次の問題に進んだ。
いつも通りの時間に起きて、いつも通りに準備をして、
いつも通り、自転車にまたがって学校に行った。
指定の自転車置き場に例のごとく自転車を止めて
2年8組の教室に向かう。Jと会ったので二人で教室に入った。
扉をあけるとすでに何人か来ていて、久しぶりとあいさつを交わした。
今日も暑いな、課題終わんねえ、どこまで進んだ。
俺はクラスに3台あるうちのひとつの扇風機を占領して
シャツに風を通したり、あー、と声を震わせてみたりした。
そのうちにSさんがきた。
声でわかる。
俺は背中を意識しながら平然を装った。
おはよう、と彼女が隣にしゃがみ込む。
俺は一瞥して扇風機におはようと返した。
Sさんはそれ以上何もいわず、他のクラスメイトと話し始めた。
少しだけ胸が痛んだ。
お盆前の続き、衣装作りに取り掛かる。
男子は内装を思い思いに作り始めた。
俺は斜め前に座っているCをちらりと見た。
黙々と作業にとりかかっている。真剣そのものだ。
いつはなそう。
頭の端でそんなことを考えながら色画用紙を切って貼って。
隣のクラスメイトとくだらないことで談笑して。
作業にのめりこめずにいた。
昼休憩をとろうという話になり、
いつもの四人で食堂に向かった。
売店でパンを買った。
大して味わわずに食べた。
俺だけが変な焦燥感に駆られていた。
教室に戻る時、Cの隣に並ぶ。
「帰り、ちょっと話そうぜ」
そう言ってCを一瞥すると、困ったように笑った。
とうとうその話がきたか、とでも言いたげな目だった。
わかった。
とだけ言って、それ以上Cも俺も何も言わなかった。
早く終わって欲しいような欲しくないような、
と繰り返し考えてこれまで以上に作業に集中できなかった。
俺はふとSさんを見た。
あの、茶色いふちのメガネをかけて衣装を縫う。
細い指で、細々とした作業を真剣にする彼女を見て喉のあたりが絞られるように苦しくなった。
その日は朝に挨拶をして以来、Sさんと話さなかった。
俺の気持ちに余裕がなかったからだった。
ぼうっと教室の白い床についた汚れを眺めた。
自然と小さなため息が出る。
俺は体勢を立て直して作業に集中しようとした。
背中の方から規則的に吹いている扇風機の風に、
切った色画用紙を飛ばされそうになって俺は急いで手を伸ばして止める。
手をあげてみると、色画用紙はくしゃっと折れ曲がっていた。
またため息をついた。
作り直そう。
再び色画用紙にはさみを通した。
外はまだ明るい。
今日はそろそろ終わりにする?
誰かが言って、俺たちは散らかした紙やら糸やらを箒ではいて、
出しっぱなしの道具を片づけて、移動させた机や椅子を直した。
「1くん」
机をひとつ戻す手が強張った。
一瞬、はねた心臓が口から出そうになった。
「なに?」
俺は振り返らずに答えた。
Sさんは箒を握る手にくっと力を込めた。
「今日は、約束あんだ」
聞かれる前にそう言って、続けざまにごめんと言って、
俺はそのままもうひとつ机を移動させた。
Sさんの顔を見れなかった。
「そっか、わかった」
Sさんはいつもの調子でそう言って、掃除に戻った。
彼女が去った後に机を置いて、その後ろ姿を探した。
そのとき、Cと目が合って、俺はすぐにまた机を持ちあげた。
いつもより重く感じた。
Sさんにばれないよう時間を見計らった。
俺は自転車をついて、Cは歩いて、学校の近くの公園に行った。
公園に着くまでお互い本題に触れず、
だんだん赤く染まってきた空を眺めながら歩いた。
自転車を止めて、古びた木のベンチに座る。
二人してため息をついた。
なんて切りだそう。
まくしあげたシャツの袖を無意味に綺麗に折り直しながら考えた。
俺は一瞬間をおいて、すう、と息を吸い込んだ。
「Sさんの、こと、なんだけどさ。」
思ったよりも大きな声が出て尻すぼみになる。
「うん」
Cは知ってたというニュアンスを込めてそう言った。
落ち着いた声色だった。
表情が気になって、右を見ると、
Cはぼんやりと地面を見つめいていて。
一瞬で胸が苦しくなった。
なにかを思い出して懐かしんでいる表情だった。
Cはぼんやりと地面を見つめたまま話し始めた。
俺は黙ってCの話に耳を傾けた。
「て言ってもお互い人見知りだし最初は特にはなさなかった」
ゆっくり息を吸い込む音がした。
「仲良くなったのは、席が隣同士になってから」
想像する。
今より少し幼い二人が笑い合っているのを。
それだけで嫉妬ややるせなさで頭が変になりそうだった。
そんな自分を嫌悪した。
「よく話すようになって、一緒に勉強したりした。」
「その辺からSさんの気持ちに気づいた」
Cは顔をあげた。
懐かしそうに笑う。
でも少し眉を寄せていて、なんだかつらそうにみえた。
あとゴミ出し。
いってらっしゃい
いってら
続き書く
Cはベンチに預けていた背を起こして、
背中を丸めて両膝に両肘をのせた。
俺は自分の手を見つめてCの言葉を待った。
「メールして、電話して」
「夏休みの間に二人で遊んで」
そこでCは黙り込んだ。
俺は何も言わずにCが再び話しだすのを待った。
自転車のベルの音とか、野球部の練習の声が聞こえた。
そうか、野球部はもう練習始めてんのか。と、
関係ないことをぼんやり考えていた。
しばらくしてから、そんな感じ、とCは顔をあげて俺を見た。
笑っているけどやっぱりつらそうに見えた。
俺は笑い返すことも何か言うこともできなくて
Cからゆっくり目線を外した。
自転車の後ろに乗せて走ったんだろう。
想像の中の二人は本当に幸せそうだった。
そして今の二人はお互い近付きたいのに距離を置いて居るように見えた。
Cはいい奴。
誰からも好かれる。
その上顔だっていい。
予想通りだったおかげか、冷静だった。
「俺もうSさんのこと好きじゃねえよ」
彼女への気持ちには自信があった。
今は嘘でも、努力はする。
こんな風に好きだと思わなくなるように。
一番の友達になれるように。
口に出すと胸が苦しくなった。
だけど、それが一番の解決策だと分かっていた。
wktk
なかなか更新できなくてすいません。
保守して下さってるのを見るととても嬉しいんですが、その期待に答えられなくて申し訳ないです…
そこでひとつ相談なのですが、
このままこのペースで更新するのか、
どうなったのか簡潔に書くのか。
どっちがいいですか?
次の更新までの意見を参考にさせていただきます。
意見はsage推奨で、お願いします。
いつも保守ありがとう。
転載禁止にして欲しい
無理なら聞き流してくれ
あまりに小説的なしつこい言い回し多かったから、転載禁止にしてもらえたらもっと感情移入できる
自分のモチベはどうなんよ?
このままがいいんだが続けられそうにないのなら締めとくれ
事実を書いてればここまで詰まることはないけど
創作物だから登場人物らしいセリフや言い回しが
思いつかなくて話が頓挫するパターンだろ
だから見切り発車すんなとあれほど
>>370
この書き方が気に障るようでしたらすいません。
なぜか書こうとするとこうなってしまって。申し訳ないです。
転載禁止に関しては、もう少しだけ考えて良いでしょうか。
>>373
最後まで書きたいです。
聞かせるのではなく私はあくまで聞いていただいてる立場です。
いつかのレスに書き始めて半月という指摘がありまして考えた次第です。
(ご指摘ありがとうございました)
ここまで保守で繋いでいただいて、お待たせしてばかりなのもどうかと思いまして…。
>>374
素人ですが物書きなんて大層なものではないです。
事実かどうかは残念ながら証明のしようがないので、みなさんの判断にお任せすることにします。
自分でも、こんな書き方なので釣りだと思われて当然だと思っているので…。
ご意見、ご指摘ありがとうございました。
このままのペースで書いていくことにします。
想像以上に長引きそうであれば、パー速に移動するということで。
いつも保守ありがとう。
夜にまた更新します。
「だから、もし、俺に気ぃつかってんなら、そんなことしなくていいから」
俺はまっすぐ前を向いて言った。
あたりはオレンジ色に染まっていて、ずっと先まで自分の影が伸びている。
Cはしばらく黙り込んだ。
俺もそれ以上何も言わなかった。
数分か、あるいは数十秒か、
長く感じた沈黙の後にCが声を出した。
「嘘つくな」
落ち着いたトーンだった。
俺は何も言わずに自分の影を見つめた。
またしばらく沈黙の後に、Cがふきだした。
「わかりやすすぎるよ」
おどけたように言う。
俺は思わずCを見てしまった。
まっすぐ目をみられて、一瞬たじろぐ。
「1も俺に気を遣わないでほしい」
そう言ったあとにCは困ったような笑顔をみせた。
Cはそう言って前を向いた。
「え?」
思わず聞き返した。
メールして、電話して、二人で遊んで、Sさんの気持ちを知っていて?
「どういうこと?」
「自分でもよくわからないけど、なんか怖かった」
Cはそう言って俯いた。
怖くなって、告白された別の子と付き合った。
Sさんとはそれ以降ほとんど話さなくなった。
付き合った子は、その子はその子として大事にした。
好きになろうとして少しずつ好きになった。
けど、その子は俺の気持ちに気づいて離れていった。
Sさんにも、その子にも悪いことをした。
一息にそう言ってCは黙りこむ。
「な、なんだよ、それ」
怒りとか動揺とか、どこからきたのかわからない悲しみとか
ごちゃごちゃに感情が混ざり合った。
ショックだった。
その時のSさんの気持ちとか、彼女の気持ちを思うと。
今まで築き上げてきた俺の中のCのイメージがぐらついた。
俺は今までの人生に嫌気さしてたんだよ
このまま一生青春なんてこねえってな
でもこのスレ見てて救われてんだ
ゆっくりでいいから完結させて
切実な俺からの願いだ
長文すまん
ありがとう。
そう言っていただけると嬉しいです。
遅いですが、必ず最後まで書きます。
なんだかんだ2週間経つぞwww
言い訳になるけど、仕事の関係でなかなか時間とれなくて。
ほんと申し訳ない。
できる限り更新するよ。
気長に待ってる!
Cは下を向いたまま言った。
「ずっと後悔してる。なんで逃げたんだろうって。」
俺は顔をあげないCに、胸の内に巣くうもやもやを
ぶつけることができずにいた。
そして、身を引きSさんと友達のままでいることばかりだった
自分の考えを少しずつ改め始めていた。
俺なら、Sさんと付き合った。
悲しませたりしなかった。
俺が身を引くことはないんじゃないか。
Cと付き合うことで幸せになるとは限らない。
現に彼女を悲しませた。
胸の中の憑き物が落ちた気がした。
自信がふつふつと湧き上がってくる。
意識はしなかったが、少し棘のある声色になった。
俺はそのまま立ち上がってCを見た。
Cも俺を見ていた。
「Cは友達、これからもそれは変わらない。
どうなっても恨みっこなし。お互い様。」
そして息を吸い込んで鼻息荒く言った。
「遠慮しねえから」
かっこ悪くてださくて恥ずかしい言葉をCに投げて。
俺はぐるりと方向転換してどすどすと公園の出口に向かって歩いた。
遠慮しねえって。何様だよ俺。
何言ってんだ。恥ずかしい。
言った直後に我に返って頭が沸騰しそうになる。
漫画のようなことを言ってしまって羞恥心が湧き上がっていた。
Cが吹きだした音がして更に早足になる。
「1!ちょっとまって!」
どすどすと振り向かず歩く俺にCは言った。
「自転車!忘れてる!」
最後の方は笑っていた。
俺は踵を返して自転車を取りに戻った。
「俺も遠慮しないから」
ハンドルをとった俺にCが笑ってそう言った。
俺の言葉に火がついたみたいだった。
ろくに返事もせず自転車にまたがって、ペダルを踏んだ。
なんだか、爽快な気分だった。
台wwww無wwwしwwwww
ありがとう。
ただいま帰りました。
明日は早いので、少しだけ更新します。
保守ありがとう。
家に帰ってからはそればっかりで、
焦りと緊張と、ほんの少し高揚感を感じていた。
「もしもし」
めずらしいな、どうしたとAが言う。
俺は携帯片手に部屋の茶色い絨毯の上に転がった。
「言ったよ、Cに」
天井を下からまともに見るのは初めてで、少し新鮮だった。
俺は高揚感のままにAに電話した。
「なんて言ったんよ」
俺は少し迷って言った。
「…遠慮しねえって言った。」
電話越しにAがふきだして、げらげらと笑いだす。
そして、かっこいいな、と笑いながら言った。
俺は少しむっとして言い返す。
「いっぱいいっぱいだったんだよ」
確かに今考えると馬鹿みたいで笑えるけど、
そのとき、その一瞬は本気でそう思ったんだ。
いっぱいいっぱいで、思ったままを口にした。
そう言うとAは笑うのを辞めて
「いや~。よく頑張ったわ。まじで」
しみじみとそう言った。
数時間前のことを思い返すと、確かに、夢かと思う。
俺は天井についた蛍光灯を眺めた。
そのときの勢いや熱がじわじわ蘇った。
「Cも、遠慮しねえって」
去り際のCの顔を思い出していた。
Aは、随分間をためた後に、うん、とだけ言った。
新聞の連載小説みたいなペースでワロタ
気長に待つわ
「俺も頑張るかな」
まるで独り言のようだった。
俺はひとしきり考えたすえに
「がんばろうぜ」
と答えた。
俺の方も独り言のような言い方になった。
蛍光灯に手をすかしてみるが、当然透けることはなかった。
心地いい沈黙が続いた。
寝返りをうったり、手を結んで開いてすかして遊んでいると
電話越しに窓を開ける音がした。
「おー」
Aの感嘆の声が聞こえる。
「なんよ」
思わず起き上がって、自分の部屋の窓の方をみた。
小さい、使われていないバルコニーに繋がった窓は
グレーがかった緑のカーテンで締め切られている。
俺はカーテンを開けて、更にその後ろの窓も開けた。
八月も下旬に差し掛かり、暑さも落ち着いていた。
少し、涼しく思ったくらいだ。
どこか懐かしい生の草や木や土の匂いがする。
ふと外で走り回っていた小学生の頃を思い出した。
久しぶりにバルコニーに出て柵に腹から預けた。
放置された鉢が足下にいくつかあった。
ここに出たのはいつぶりだろう。
柄にもないけどノスタルジーに浸っていた。
電話越しにAが笑った。
なに、と聞くと、お前よく言えたなと掘り返してくる。
中に戻らずバルコニーに出たまま、Aと言い合って、笑った。
放置していてすみません。
今日は家に居る時間が長いのでいつもより更新できるかと思います。
保守ありがとう。
高良健吾っていう俳優が出ていて、すごくAに似てました。
続き書きます。
昨日の夢心地がまだ続いていて、
あんな台詞を言った手前、どんな風に過ごせばよいのか分からなくなっていた。
自転車から降りると、思い出したように急に汗が吹きだしてくる。
今日はいつにも増して、ひときわ暑い。
教室に行くまでの自販機で、カルピスを買って、開けて、飲んだ。
夏になるとなぜか飲みたくなる。
喉を降りて、内側から冷やされる感覚が心地よかった。
少しだけ緊張しながら教室の戸を開けると、
もう既にクラスメイトが集まっていた。
俺はSさんとCの姿をさりげなく探しながら扇風機の前を陣取った。
Cと目が合って俺はすぐに逸らして手だけ挙げた。
Sさんはまだ来ていないようだった。
ほっとしたのと残念なのと。
手に持っていたカルピスをまた口に含んだ。
「転載禁止にはしない」ってやっぱ臭い
釣りに全力で釣られるのもびっぷらの楽しみかもしれんが
ここまで露骨に明らかな妄想小説を素直に読んで釣られて
それが楽しいか…?
んでもって>>1はこれがまとめに載ると思ってるのかね…
SS書くサイトに行けばいいのに…
続き書きます。
>>439
まず、ここまで読んでいただいてありがとうございます。
釣りかどうかは>>375で書いたとおり証明できかねますので
みなさまの判断にお任せするというかたちをとっています。
なので、釣りと思って読んでいただいてもよいのです。
まとめサイト云々の話は、(お待たせするやもしれませんが)完結した時に決めますね。
保守ありがとう。
お前女だろ?
前に「兄貴の彼女を好きになった話」とかいうゴミクズ小説書いてた女だろ?
どうせ転載禁止にしないのも自分の自己顕示欲満たしたいからだろ?
ツイッターで有名になりたいとかだろ?
きめえんだよ
SSサイトでやってろカスが
つづきはよ
そうしているとAが来て隣に座った。
俺は何も言わずに少し寄って、
Aにもその風を分けてやった。
そうこうしているうちにSさんがきた。
Aが軽くひじ打ちをしてくる。
わかってる、と肘を押し返したものの
後ろを向かずに扇風機と向かい合った。
そしてまた、少し緊張しながら、さりげなくCの様子をうかがった。
特に何も変りなく、彼女に目をくれようともしていなかった。
それは今までと変わりない態度だった。
少し安心してまた扇風機に向かった。
初めっからあからさまに態度を変えられると俺はどう出ればよいのか分からない。
いや。安心するのはまだ早い。わからない。いまに動きだすかもしれない。
真剣に扇風機と向かい合っている俺をAが見て見ぬふりをする。
そして、いつものごとくSさんとあいさつを交わしていた。
接近する足音に少しだけ肩に力が入った。
「おはよ」
真上から声がする。
背中に気配を感じてぎこちなく顔をあげて見ると、
覗き込むようにして笑うSさんと目があった。
また更に肩に力が入るのが分かった。
「おはよ」
扇風機の羽根の音に消されてるんじゃないかってくらい小さな声だった。
自分でも驚いて、思わず咳払いをして目線を外した。
Sさんは扇風機の風になびくスカートを軽く押さえて、
つま先だけが青い上履きを鳴らして方向転換した。
一番近い机の上に、肩から下げた荷物を置いたのを見届けた俺を
さらにAが満足げに見届けていた。
俺はなんとなくバツが悪くてまた扇風機に向き直った。
俺の方もああ言って意気込んだ割に何もできずにいた。
盆前のように、一緒に帰ったりする日もあったが
だからといっていい雰囲気になるわけでもなく
淡々となぞるように同じような日々が変わりなく過ぎて行った。
夏休みも終わる三日前のことだった。
帰り際、俺はいつになく緊張していた。
前日の夜から、ある決心をしていたのだった。
それは連絡先を聞くことだった。
ずっと気にしてはいたもののなんだかんだ聞かずじまいだった。
進展のない日々にしびれを切らした俺はまず第一歩を踏み出そうと考えた。
そして前の日の夜、どう言うのが自然か夜遅くまで考えた。
以前Jが言った、それだけ仲良くて知らないのが不自然だ、
という言葉が俺の背中を押してくれていた。
寝る直前、布団に入って色んな案を考えたが、
結局シンプルなのが一番だと思い直したのだった。
俺は少し前を歩くSさんを一瞥した。
深呼吸をした。
保守
最近の楽しみの一つ
放置してばかりですいません…。
明日も早いので今日は更新できませんが、木曜日は少し余裕がありそうなので、できるかと思います。
木曜日の夜までお待ちいただけるでしょうか。
保守ありがとうございます。
保守
お待たせしました。続きかきます。
「んー」
気の抜けた声でSさんが返事をした。
反して俺は緊張を加速させた。
口の中が乾いてくる。
俺は無理やりツバを飲み込んだ。
「なんか連絡先知らんじゃん、俺ら」
仲良いのになんでだって前から思っててさ。
回りくどくて自分でもいらいらした。
髪の毛をぐちゃぐちゃに掻き毟りたくなる衝動にかられる。
こんなこと言いたいんじゃない!
Sさんはきょとんとした顔でみている。
長いまつげに縁取られた目が瞬きをした。
「だからさ、教えてください」
最後は敬語になってしまった。
「あ、うん、いいよ」
少し固まったのちにあっけからんとSさんはそう言って、白い携帯を開いた。
あまりにも呆気なくて俺は拍子抜けして、
ワンテンポ遅れて携帯を出した。
学校の帰り道、黙って向かい合って、携帯をカチカチならした。
一歩進展。
登録されたフルネームを見ながらにやける口元を抑えた。
ただ1レスでも嬉しいぜ
完全クリアじゃないか
他に何を書くことがあるというんだ
このレスが>>1の自尊心を傷つけたんだろうww
これだから4流作家はw
こういう青春送ってみたかったなぁ
はじめから見てるんだが・・
もう来ないのか?
保守