自分の彼女が自分以外の人にさえたHスレより
同じ市内に別々にアパートを借りてはいたものの、ウマくいっている時は同棲も同然だった。
ただ、合鍵を渡したり、お互いの部屋に私物や生活用具が置きっ放しになっているような状態にはしてなかった。
親しき仲にも礼儀ありってやつだ。それに車で5分も走れば行き来できる距離だったので特に不自由は感じてなかった。
月に2回くらいは休みを合わせて一緒に過ごす。
その日はその一緒に取った休みってやつで、前日の夜から一緒に過ごし、特にどこかに出掛ける予定も組んでいなかったので1日中ゴロゴロしてた。
膝枕で耳掃除をしてもらうという、そんな至福の時を過ごしつつマドカに質問をする。
「お客さんに…耳掃除してあげたこと…ある?」
「え? それって、どっちのお客さんって意味?」
マドカは美容師で、今現在も「客商売」なのだ。
そう言われて考えてみれば、美容室や理容室って、店舗によっては耳掃除のサービスを実施してる場合もある。
「うーん…」
彼女はデリ嬢時代のことを思い出すとき、遠い目をする。
俺はその表情がなぜか好きだったし、どんなことを思い出してるんだろうって想像すると、胸が張り裂けそうなくらいにドキドキするものがあった。
マドカは、時々俺が我慢できなくなって聞いてしまうデリ嬢時代に関する質問に対して、答えることを嫌がってはいなかった、と思う。
むしろ積極的に答えることすらもあった。
そもそもイヤなことはイヤってハッキリ言える性格なので、本当にイヤなら質問は却下されてもおかしくない。
「したことないねぇ」
「あ、そうなんだ」
なんだか少し安心した。
エロサービスは勿論いやだけど、こんな風に恋人っぽく客と過ごしていたとすれば、それはそれで嫌なんだ。
そういう矛盾を、俺は心に抱えていた。あるいは、その矛盾に心を蝕まれつつあったのだろう。
そして、俺がそういう矛盾を心に抱えて色々葛藤していることをマドカはきっと見抜いていた。
だから俺が知りたいことに素直に答えてくれるのは、マドカなりの優しさであり、ある意味、謝罪だったのかもしれないとも思う。
「時間は限られてるからね。そもそも綿棒とか、なかったし」
「そっかぁ」
「あ、綿棒はあったかも。ラブホの洗面所って、けっこうそういう備品揃ってるよね」
「あーそういえばあるねぇ」
マドカの口から「ラブホ」っていう単語が出てきて、ちょっとだけ胸が苦しくなる。
俺自身はこれまで一度も、マドカとラブホに行ったことがなかったから…。
「時間? んっとね、最高で12時間って人がいたwww」
「は?半日?」
「笑っちゃうよね。え?12時間ですか?本当ですか?って3回くらい聞き直したよw」
「ちょっと、それ料金いくら?」
「えー。あんま覚えてないな。ロングになるほど割引率高かったんだよなぁ確か…」
別に金額なんてどうでもよかった。12時間ものあいだ密室で客と2人きりかよ…って凹んでた。
「18万くらい? 20万までいかなかった気がするw」
金額なんてどうでもよかったはずの俺でもさすがに唖然とした。
金って、あるところにはあるんだな…。
恐ろしく不安な気持ち。でも聞かずにはいられない。
すぐに違う言葉で聞き直した。
「つか…何回…イかせてあげ…た…の…?」
さすがにコレは聞いても良い話題なのかどうか、果たして聞くべき事だったのか、質問したあとになって少し後悔した。
語尾は消え入りそうになってたし、ちょっと泣き入ってたかもしれない。
「な・い・しょ・w」
俺の不安な気持ちと、だがしかし、それを上回ってしまう知りたいって気持ちを、マドカは理解した上であえて茶化してくれたのだと俺は思う。
重苦しい質問に対して、重苦しい答え方になったら、お通夜みたいな2人になってしまう。
マドカが冗談っぽく茶化してくれたおかげで、適度に全身の力が抜けた気がする。
「イジワルすんなーw そんな言い方されたらますます俺が知りたがるってわかってるだろーw」
「うふふwww」
マドカは片方の耳掃除を終えて、今度は反対の耳ね、って感じで俺を誘導しながら微笑んでた。
俺は体を反対向きに入れ替え、再び膝枕をしてもらう。チンコが勃ってた。
「教えてくれないの?」
「大人しくしてないと、綿棒、奥まで突っ込むぞ」
「怖い…」
俺は図体こそデカいけど、普段の生活においてはマドカに結構イジメられたり、イジられたり。
尻に敷かれてた方が気楽だったし、そのぶん思い切り甘えられるという利点もある。
「そういうのって、本気で知りたいの?それとも単なる興味本位?」
「え、うーんと。正直言うと、本当は知りたくないのかも」
耳掃除をするマドカの手が止まって、俺の話の続きを待っているような感じだった。
「でも知らないままでいるのも辛いんだよ、なんか仕事中もイライラしたり…」
「そっかぁ…ごめんね…」
謝られるのも本当は辛い。そしてマドカのほうが辛いってこともちゃんと理解はしてた。
「でしょでしょ?」
「でも、知りたいって思う理由が微妙に違うかも」
「え?どういうこと?」
「私なら、そんな女とこの先もずっと一緒に過ごしていけるのかどうか、その判断材料に使うかなぁ」
マドカのそのセリフは、どこか寂しげで、憂いを帯びていたように思う。
俺は何も言ってあげることが出来なくて、マドカが吹っ切れたように逆に明るい声で話し出す。
「私、聞かれて困るようなことないし、ヒロシが本当に聞きたいならなんでも話すよ?」
世の中には知らない方が幸せ、ってことがたくさんあると思う。
でも、マドカに関して、他の男が知っているのに、俺が知らないことがあるということ。
俺はただそれだけで不幸なんだ。そんなことを一生懸命伝えた気がする。
「わかった。じゃ正直に話すよ。耳掃除終わってからでいいよね」
彼女はそう言うと、再び綿棒を動かし始める。ちょっとイジワルな感じで痛かった(ノД`)
そう言ってマドカは、フーって俺の耳元に息を吹きかけた。
俺は時々彼女に子供みたいに扱われることがあって、でもそんな時のマドカはすごく優しい感じがした。
それは包容力っていうやつなのか、そんなところもデリ嬢として人気が出た理由の一つだったのかもしれない。
元々生まれながらに持っていた資質なのか、それとも色々と苦労を背負った結果身に付いたものなのか。
そのどちらなのかはわからなかったけれど、一緒に居るとすごく安らぎを与えてくれたのは間違いない。
飲み物とお菓子なんかを準備して、場合によっては険悪な雰囲気をもたらす
これからの話題に備えた。2人とも努めて明るく振舞っていたような気もする。
「ってゆうか、私のデリ時代の話を聞きたがるときのヒロシって、ちょっと興奮気味だよね?w」
「え?w あ、うんw バレてたかw ごめん…」
「・・・すいませんwww (まだ勃起中です)」
「ま、人それぞれ、色々な性癖があるからねぇ…」
色々な性癖、マドカのその言葉に俺は更にチンポを硬くしてしまった気がした。
確かに彼女は色々な男たちの色々な性癖を目にしてきたに違いない。
勿論、それは目で見る程度、だけのことじゃない。
その手で、その体で、性癖を受け止め、男達の性欲を解消する役割を担ってきたのだ。
勿論俺だって、大学時代を含め、こうやって再会した今でも、マドカをそういう目で見るときがある。
俺はマドカの彼氏だから特別な存在、なんてことはなく、俺もマドカに欲望をぶつけてきた男達の一人なのだ。
飲み物をちょっとだけ口にした彼女が本題に戻す。
どうやら話題をうやむやにするつもりはないようだ。
「ちょっと待って。あのさ…本当は話したくないなら、別にいいんだよ言わなくても」
「ペラペラ話すようなことじゃないけど、だいじょうぶだよ」
マドカが無理してないか見極めようと、その本心がどこにあるのかを探ろうと、俺は集中する。
「それに、色々と知ってもらって、その上でヒロシにはもう一度選ぶ権利があると思うし…」
そういうことか。
そうだ、彼女は「判断材料」だなんてそんな言葉をさっき口にしてた。
要するに、全部打ち明けた上で受け入れてもらえないようなら、この先はないって思ってる。
彼女がデリ時代の話を隠さずに話してくれるのは、そういうところに本心があるのだ。
「べ、別に俺、色々聞いても、それを判断材料にしようとかそういうつもりはな…」
「わかってる。でも、きっと、この先もずっとずぅううっと気になることだと思うんだよ」
マドカはわかってる。
俺なんかよりも、その過去をずっと気にしてる。
彼女は真っ直ぐに俺の目を見つめながら話を続ける。
「見ててわかるもん。ちょっと興奮しちゃうところなんか、もう末期だよねw 末期www」
ちょうどいいタイミングで茶化してくれる。
これも彼女なりの気遣いなんだろう。
でもギリギリなのはきっとマドカも一緒だったと思う。
「じゃ、私が話すね。テキトーに。聞きたいことがあればその都度答えるから、質問して」
「う、うん。わかった…」
ああ、ついにこの時が来てしまった。
俺はネットカフェで、デリ嬢としてのマドカを検索して、ある程度把握したつもりではいた。
でも、直接本人の口からそれを語られるのは、重みが違いすぎる。
手のひらが汗で凄いことになってた。
それ以上に、パンツの中で我慢汁がひどいことになっていた。
困ったように笑う彼女は、とても綺麗な気がした。
大学生だった頃よりも体重はさらに落ち、美容師としての自覚がそうさせたのか、お洒落さんになった気がする。
大学時代はお互いジャージで過ごしてるような感じだったが、今では俺の服装のダサさを指摘してくる程だ。
「まず誤解を解いておこう。ヒロシは自分が風俗使ったことないから、わからないことのほうが多いよね」
それはある。俺は自分が客になったことがないからすべてが想像や妄想で、それがイライラする原因の一つだ。
「例えばさ、3時間コースを選んだお客さんがいるとします」
「はい」
「その3時間、ずっとエッチなことをしっぱなしなんだろうって不安に思ってるよね?」
「(´;ω;`)ウン」
「ハッキリ言ってそれは誤解なんだぞ?」
彼女は俺をなぐさめるように優しい言い方をしてくれた。
「え? ほんとに? 違うんですか?」
まるで先生と出来の悪い生徒みたいで、これはこれで萌えてきた。
「うん」
「それにこれは、デリ、の話で、お客さんがお店に通うタイプの店舗型ヘルスだと違うかもしれない」
「はぁ」
なんか風俗に詳しい彼女ってのも、趣があって宜しいかと…_| ̄|○
「だいたい2時間以上のコースから、ロングコースって呼んでたんだけど」
「うん」
「ロングを頼むお客さんって、お金にも、心にも、余裕があるんだよ」
「へー」
「だから、ガツガツしてないの。遊び方がスマートな感じ」
「よくわからん」
「簡単に言うと、プレイ以外の時間が長い。喋ったりしてる時間が長いってこと」
「むむ」
「場合によっては、カラオケしたり、ルームサービスで食事したり、お酒飲んだり」
「そうなんだ」
「旅行に行ってお土産持ってきてくれたり、その旅行の話ばかりで終わったりする人もいた」
「なんか安心したw」
デリヘルって、楽しみ方はそれぞれなんだな。
店に行くんじゃなくて、ホテルに呼ぶってのは、自由度が高いってことか。
「あい…」
「ロング頼めばプレイ時間も長いんだろ、色々エロエロだろ、的なお客さんのことね」
「・゜・(ノД`)・゜・」
「さらにどん底に突き落とすけど、短いコースを頼むお客さんほど、エロい」
「・・・。」
「短い時間内ギリギリまで粘るというか、最後にシャワー浴び終わったあとでもう1回って言われたり」
「・・・。」
「何回でも求めていいの?」
「一応、店のプレイ内容の説明には、時間内発射無制限って書いてるから…」
「多い人で何回くらい?」
「50分コースで5回イった人がいたw」
「うわぁwww」
笑い事じゃないよね…。
この時も2人で一緒に笑ったあと、( ゚д゚)ハッ!ってなった。
」
「うん」
「のんびりしてたら2回するのは時間的に無理です、みたいな」
「うんうん」
「でもどうしても2回したい!って場合は、延長してくれたりとか」
「あの…」
「ん?」
「さっきから頻繁に出てくる、する、とか、したい、ってのは…その…本番のこと…?」
「ん?まぁいいから今は黙って私の話を聞いてなさい」
「は、はい…」
なんだかマドカが饒舌になってきて、俺は借りてきた猫みたいにおとなしくなった。
ちょっぴり悔しい気がしたけど、マドカの話は風俗童貞の俺には新鮮で面白かったかもしれない。
「なるほど」
「一応ここでも言っておくけど、例外もいるからね。都合の良いことばかり話すつもりはないし」
「あい…」
「それってつまり、ロングコースでいっぱい発射して帰った客もいるってことね…」
「そう。でも、お客さんは勝手に自動でイったりしないからね?わかる?」
「うん…」
「この際だからハッキリ言うけど、それは私が頑張ってイかせたってことだからね?」
「・・・。」
都合の良いことばかり話すつもりはないってのは、楽な仕事じゃなかったって事。
勿論、楽なお客さんもいたけど、その逆のお客さんもいたんだよ、ってマドカは何回も強調してた。
彼女がそれを強調するのは、それが俺に一番苦しみを与えるってわかってるからこそ。
そういうことを聞いても、この先一緒にいられるのかどうか、きちんと選びなさいって、そういう意味だったんだろうな。
それと、そういう話で俺が興奮するのを知った上でイジメてた気もする。
Sなマドカの遊び心だ。
「まじ?」
「酔っ払った勢いで呼んだものの、アルコールのせいでちんちんが勃たないってことがよくある」
「へー」
「あとはやっぱり、一緒にいるだけでいいって感じで遊びに来るお客さん」
「うんうん」
「前者は一応プレイを頑張るけど、後者はプレイすらしなくて済む」
「後者イイねえ、俺にとってもマドカにとっても」
「でも裸にはなるよ。何もしなくていいって言うお客さんでも必ず一緒にお風呂入りたがる」
「・・・。」
「俺も今日マドカと一緒にお風呂入りたい><」
なぜか急にそんなことを言いたくなる。
「いっつも一緒に入ってるじゃんかwww」
そう言って彼女は笑ったけど、俺の心は穏やかじゃなかった。
俺は後者( ・∀・) イイネ!なんて言いつつも、酔っ払って勃起しないっていう前者のほうこそ気になる存在だった。
マドカが言ってた「前者は一応プレイを頑張る」ってのは、勃たないチンポを勃たせるために頑張ったってことだ。
そして客のほとんどは射精することが目的なわけで。
勃起しなければ、おそらくほぼ、射精もしないのだろう。
マドカが言ってた発射ゼロで帰っちゃうお客さんってのは、そういうお客さんのはず。
これは一見、お金を払ったのにも関わらず射精しないまま帰ってしまった可哀想な客にも思える。
でも俺の立場から言わせてもらえばそれは違う。
逆に羨ましくて、憎たらしい客だ。
マドカは、根は真面目だし、責任感も強い。
お金のために割り切って働いてたと言ってはいたが、金に執着するぶん、金を払ってまで自分に会いに来てくれたお客様を大切にしないわけがなかったと思うんだ。
だから彼女はなんとかして勃起させよう射精させようって、一生懸命プレイしたと思う。
そう考えると、マドカはずっとチンポを素直にしゃぶってたような気がして苦しくてたまんなかった。
興奮したけど。
俺ではない男のチンポをマドカがフェラしているシーンを妄想してた俺は、現実に引き戻された。
「聞いてる?私の話」
「き、き、聞いてたよ」
マドカのそのクチビルが気になる。
普段、何気なくキスしたりしてたそのクチビルが。
「ちなみのちなみにね、プレイしなくていいよーって言ってくれるそういうタイプのお客さんなんだけどさ」
なんだろう、ちょっとマドカが嬉しそうに話してる。
「私の場合、常連さんの中でもそういうお客さんが占める割合がすごく多かったと思うの」
「へー」
「べつにヒロシを安心させるために言ってるわけじゃないよ?」
「うん」
確かにそうだろうと思う。
都合の良い話ばかりを話すつもりはないって断言したマドカが、俺を安心させようって理由で
「自分は癒し系だったから濃厚なプレイはあまりしませんでした」
とか過去を捏造するわけもない。
まして自分自身の保身をはかりたいがためにそんな嘘をつくにしても、もう遅すぎる気もする。
マドカに対するコメントはそのほとんどが好意的なものか、または、予約が取れねー、という嘆き。
そして、確かに「マドカちゃんに癒されました」的なコメントも多かったけど、プレイもしっかりしてるという意見が大多数を占めていた。
勿論、本番できたからそれが単純に満足、って意見もあっただろうけど。
ネットカフェでオナニーしたあと、その冷静になった頭で、デリ嬢としてのマドカを考えてみた。
その結果、彼女はお客さんの「心」も「身体」も癒すことができる稀有な存在だったのだと、俺は分析した。
この場合の「身体を癒す」ってのは、当然ながらエロ行為の意味だ。
掲示板を読んでて、俺が最も興奮させられたのは、最初は「下手」だと低評価されてたマドカのフェラが、時間が経つにつれて『フェラ絶品』『上のお口のほうが俺は好きだw』などと高評価する書き込みが増えていった点だった…。
『くちまんこさいこー』だなんていう下品な書き込みですら、マドカに対する賛辞の言葉だってことが信じられなくて、俺は興奮と悔しさの狭間で悶えた。
実際上手だったけど、それが本当に意味するところはネットカフェで風俗掲示板を見て初めて知った。
マドカにフェラしてもらった連中が騒いでいて、オマエら一体なんなんだよ、ってとりあえず思った。
俺だけが知っていればいいはずの事実を、そいつら全員が知ってて、しかも直接味わったことがあるんだ。
その時の俺のショックと興奮は、ちょっとなんて書いたらいいのかわからない。
でもチンポはガチガチで、さっき1度オナニーを終えたはずなのに、すぐにガチガチだったし。
マドカはデリ嬢としてお客さんから求められるプレイは平均点以上の出来だったようだ。
いや、掲示板の評価を真に受ければ、かなりの高水準なプレーで客を満足させていたようにも思える。
とにかく、男達の心も癒し、その身体をも悦ばせる行為をきっちりこなしていたのは事実だろう。
それでもプレーしなくていいよっていうお客さんが多かったと、マドカが言うのが不思議だった。
「うん」
「でも、私のお客さんは絶対にまともなお客さんが多かった自信がある!」
「なんだそれ」
「ってか、他の女の子と顔を合わせる機会とかなかったの?」
「あったよ、女の子の待機所っていうのがあったし」
「そういう場で、あの客はこうだったああだった、とかそんな話にならないの?」
「うーん…他の女の子達はそういう話をしてたんだとは思う」
「マドカは?しなかったの?」
「私…ほとんど予約で埋まってたから、待機所に戻る暇なかった。なんかごめんなさい」
「え?ああ、うん。人気だったんだね…。」
「そうだったのかも…」
デリ嬢だった過去を告白した当初は、自分はあんまり人気なかったよって謙遜してたはず。
でもこの時は、自分が人気デリ嬢だったということをマドカは否定はしなかった。
ただそれだけじゃなかったってことは確信しつつも、あえて聞いてみた。
「それは絶対に違う、私はそんなんじゃなかった」
いやそこはあまり強く否定しないで…、私はエロが売りでしたって言われてるみたいで俺が悲しい…。
「私に言わせれば、自分で癒し系ですなんて言うデリ嬢は、仕事サボりたいんだってば」
「ほぉ」
『一緒にいるだけで癒されるぅ~、だから私のお客様はイかなくていいっていう人が多いんですぅ~』
マドカは自分で想像したムカつくデリ嬢の姿を、身振り手振りを交えて滑稽なモノマネとして披露してみせた。
おそらく同じ店で働いていた女の子にそんな奴がいて、そいつをモデルにアレンジを加えてデフォルメしたと推測。
「私はそんな事をお客さんの前で言ったりしたことは一度もない」
「そっか」
「そりゃお客さんの方から、心が癒された、とかそう言ってくれることはあったよ」
「うん」
「でもその言葉はさ、裏を返せば、体も満足させてくれって言ってるんだよ」
「・・・。」
「・・・。」
「ワザワザお金払ってまで呼ぶんだよ?どんなに体裁を整えてもスケベなんだよ」
「・・・。」
「癒されるのも大事だろうけど、エッチなこといっぱいしたいに決まってるじゃん?」
「・・・。」
「目的は絶対にそこ。ヤりたいに決まってる。男って最終的にはそういう生き物」
「なんかごめんなさい」
俺が男を代表して謝っておいたわ。なぜか。
なんでだおい。
「だからね、私はデリ始めたばかりの頃…」
「・・・。」
「男ってこういう生き物なんだ、って毎日のように自分に言い聞かせてた」
「…ごめん」
「1分が10分に感じたし、10分が1時間に感じた。辛かった」
「…ごめんなさい」
「ちょとw ヒロシに謝ってもらっても困るw」
「いやなんとなくw」
また謝っておいたわ。
なんでだろ。よくわからんけど。
でもお互い緊張感もほぐれてきて、なんか重い話をしている感じはなくなってた。
「エロい?」
「どんな耳してんだよ。さっき掃除したばっかりなのに」
「え?なに?」
「え・ら・い! って言ったの!」
「ん?なんで?」
「だって風俗経験ないんでしょう、それだけでも褒める価値はある」
「えへへ」
「まぁそのぶんそこらへんの女の子にちょっかい出してきたんでしょうけどね」
「・・・。」
「そういうヒロシはハッキリ言って、私は嫌い」
「・・・。」
「ちょっと…なんか話が脇道に逸れてきたよ…。戻して戻してw」
まどかは俺をひと睨みしたあと、飲み物を口にして、また元の表情に戻った。
「ですね」
「たぶん今こうしてココに存在してなかったかもだし、ヒロシとも再会してなかったかも」
「うん」
「あ、そういえば。私大学1年間休学してたんだよ」
「え?辞めたんじゃなかったの?」
「まぁ休学後に辞めちゃったけど」
「そういうことだったのか」
「単位は落としてたから確実に留年はするけど、また大学に戻れるといいなぁって思ってたからさ」
マドカがそんなことをつぶやくと、急に場の雰囲気が暗くなった。
自分の彼女が過去にデリ嬢をやってたって話の方が、よっぽど辛いはずの話なのに。
そう感じたのは俺だけじゃなかったらしく、マドカが強引に話題を元に戻した。
「やめよやめよ、こんな話題。デリの話の方がまだ明るく話せる気がしてきたwww」
「あ、えーと…」
聞きたいことは多いけど、聞く順番を間違えると大変なことになりそう。
なるべく小さいダメージで済みそうなものから消化していくべきか。
それとも最初にデカいダメージ喰らって、細かいことなど気にならない境地に達するべきか。
それにマドカは、たぶん、俺がここまで質問した内容をちゃんと覚えてる。
その質問に答えるということが俺にダメージを与えることをわかった上で、
もう一度俺に心の準備をさせようと、質問はなんなのか?と忘れたフリして問いかけているような気がした。
「んっとね、12時間コースの人は何回だったのか、って質問と」
「うん」
「その、何回した、とか、したい、とか。その中身が…本番…だったのか…って質問…」
だめだ。
俺はどうしても「本番」って言葉を口にするとき動揺が隠せない。
普段使い慣れていない単語ってこともあるけど、その言葉の意味するところが嫌すぎる。
「あのね、いつでも誰とでも、本番してたわけじゃないからね」
「うん…」
「ま、回数の問題じゃなくて、していたという事、それ自体が問題なんだろうけど」
「はい」
「それに、本番だけじゃなく、他の行為だってヒロシに聞かせるような話ではないはずだもんね」
マドカは淡々と語る。けっこうドライだ。
俺が本当に聞きたがるならば、それに答える覚悟はすでに出来ている。
「本当に聞きたい?ヒロシ大丈夫?」
「大丈夫じゃない気がするけど、なぜか勃起してる…」
「なんなんだろね、それw」
「わからんw」
「今…エッチしちゃう?」
「え?」
いや、もしかすると初めてだったかもしれない。それなのにこのタイミングでなぜ?
「色々聞いちゃったら、ヒロシはもう私となんかするの嫌になるかも…」
ああ、マドカは俺よりもずっと先のことまで考えているんだな、って思った。
過去のことを寝掘り葉掘り聞いてみたいような聞かないほうがいいような、なんて迷ってる俺。
過去に関してちゃんと答える覚悟があって、問題はそのあとだって見定めているマドカ。
なんだか俺だけ前に進めなくなってしまうような気がして、慌ててマドカを追いかける。
「いや、全部聞く。全部聞いた上でエッチする」
それ聞いてマドカは苦笑いしてたけど、俺は大真面目だった。
ようやく覚悟ができた。