俺が女の子たちを殺してわかったこと 第一夜『俺が最初に殺した女の子』
俺が女の子たちを殺してわかったこと 第ニ夜『わたしは死んでも死なないの』
続きはよ!
◆
「よっ」
「おそいよー。かなり待ったんだけど」
「ごめんごめん」
駅の改札を出ると、遅刻した俺をヤエがむかえた。
ヤエは頬をふくらませて、露骨に待ったと主張した。
「そっちが誘ってきたのになあ」
「ごめんごめん。電車が遅延しちゃってさ」
「駅員さんに聞いたけど、遅延はないって言ってたよ」
「……ごめん、うそついた」
「すぐバレるウソをつかないの」
「ごめん」
もう一度僕が謝ると、ヤエは「しっかりしろー」と肘で俺の腕を小突いた。
初めてするやりとりに少しだけ口もとがゆるんだ。
私服姿のヤエは、制服のときよりも生き生きして見える。
俺は財布から映画のチケットを取り出してヤエに渡した。
実は女子とふたりっきりで出かけるなんてしたことがなかった。
学校帰りとかならともかく、休日にわざわざ会うなんてことは初めてで、いろいろ考えたすえ無難に映画を見ることにした。
「お金は何円だった?」
「気にすんなよ。おごりだよ、おごり」
「いいの?」
「遅刻したからね。それぐらいはさせてよ」
「じゃあ遅刻してなかったらおごってもらえなかったんだ?」
ヤエの声にはいたずらげな響きが含まれていた。
「そうだよ。ヤエにおごるために遅刻したんだよ、俺」
「普通におごってほしいなあ」
「たしかに」
「まあ、キミなりのわたしへの気づかいってことにしておくね」
そうしておけと、俺は少し格好つけてそう言った。
遅刻したのは髪型のセットに時間がかかったからだけど。
駅の中を行き交う人々の足取りは忙しない。
俺たちは寄りそうように人ごみをすり抜けて、映画館を目指した。
こうしてふたりで歩いているだけで、俺のこころは踊った。
実は俺ってすごいエコな人間なのかもしれない。
「歩くの早いよ」
「そうか?」
いつの間にか俺はヤエの少し前を歩いていた。
どういうわけか体重がなくなったように足取りが軽い。
「わたしが遅いのかな」
「そうじゃない? 今まで言われたことないし」
俺がそう言うと、彼女の眉間にしわがよった。
今さら気づいたけど、この子は表情の変化が非常にわかりやすかった。
「しっかりついてこないとおいてくからな」と僕がふざけて言うと、
「じゃあこうしておくね」
彼女が俺の服のそでを指でつまんだ。
「これなら先に行くこともないもんね。なんだか飼い主になった気分」
「俺は犬ってこと?」
「うん。前から思ってたんだよね。柴犬っぽいなって」
「俺が?」
「うん。理由はないけどね」
隣を歩くヤエが俺のそでをひきよせる。
服越しにお互いの体温が触れただけで、俺の心臓ははねた。
俺は自分の胸の高鳴りを悟られなくてヤエに文句を言った。
「ていうか、あんまり服引っ張んなよ。のびるだろ」
「すでにわりと伸びてると思うけど」
彼女がグイグイとそでを引っ張る。
「袖がイヤなら手、つないでみる?」
思わずヤエの表情を見返してしまう。
自分がどんな顔をしているのかは、なんとなく予想がついた。
「やめとこっか」
一瞬だけ沈黙が訪れた。雲に隠れていた太陽が、顔を出してヤエを包みこむ。
彼女の横顔は一際白くなって、俺は目を細めた。
なぜか早く次の言葉を言わないといけない気がした。
「俺はいいよ。つないどく?」
「こっちのほうがいい」
そう言うとヤエはまた俺のシャツの袖を強く引っ張った。
そんなやりとりをして、俺たちは映画館にたどり着いた。
◆
俺が選んだ映画は、飛行機をテーマにしたコメディ映画だった。
飛行機が飛びだってから着地するまでのスタッフの大変さをコメディタッチで描いた作品。
最初はもっと大作っぽいものを見ようと思ったけど、気楽に見れる内容の方がいいかなと想いこれにした。
ドラマや小説なら、映画を見終わったあと重苦しくその映画の内容から話が発展して……
みたいなこともあるのかもしれない。
もっとも俺はそういうのがどういうわけか嫌いだった。
理由は知らないし、好き嫌いに理由をつけるのはバカバカしい。
「おもしろかったね」
ヤエは映画の内容を気に入ってくれたらしく、俺の映画選びのセンスを褒めてくれた。
「途中の副操縦士の人の演技、よかったよな」
「なんかすごい情けなかったよね」
「飛行機って乗ったことないから、新鮮だったな」
「ヤエも? 俺もなんだ。まあ乗らなくてもいいかなって思ってるけどね」
「どうして?」
「飛行機って堕ちたら絶対助からないだろ」
俺がそう言うと、ヤエはストローから口を離した。
口もとをおさえたので、ひょっとしたら吹き出しそうになったのかも。
「飛行機の事故の確率より、車で事故にあう可能性の方がずっと高いよ」
「それぐらい知ってるって。でもなんとなくわかるだろ? 俺のきもち」
「なんとなくね」
中身のない会話が、顔に当たる夏の風のように心地よかった。
そもそも俺はなんでヤエとデートしようと思ったんだろ。
映画館をあとにして俺たちはボウリング場へと行った。
ヤエがボーリングをしたいと言いだしたからだ。
ボウリング場に着くころには、ヤエの歩くペースもわかってきていた。
女子だと思って侮っていたけどヤエはボウリングが異様にうまかった。
第一投目で「デキる」とわからせる綺麗なフォーム。
しかもストレートかと思ったら、しょっぱなからカーブを使ってきた。
勝てたのは球威だけ。スコアではかなりの大差をつけられて俺はしょげた。
「カーブどころかシュートまで使えるのか」
「シュートは得意じゃないから、フォームが少し変だけどね」
今まさにシュートでスプリットを処理して、スペアを取ったヤエはピースした。
「お前すごいな。女のくせに」
「お前よわいな。男のくせに」
ヤエが俺の口調を真似する。
「うるせ。ていうかボウリング得意なんだな」
「そうみたいだね」
「なんだよ、そうみたいだねって」
「だってほとんどやったことないんだもん」
どう考えても、相当練習しなければできるレベルではないと思ったけど、それ以上は言及しなかった。
よくよく考えればヤエはスポーツテストでも、賞をもらうぐらいには運動ができるヤツだ。
なんでもできるんだろう。
◆
ボウリングを終えて、俺たちはまた道を歩いていた。
ヤエは散歩が趣味らしい。
ゆっくりと移り変わる景色が好きだそうだ。
俺にはあまりわからない感覚だった。
ふとヤエが将来なにをしたいか聞いてきて、俺はどう答えていいか困った。
やりたいことなんてなかった。
高校を出たら普通に就職して、ある程度金が貯まったら家を出る。
そんな漠然としたプランしか、俺にはなかった。
そのことを言うと、彼女は「そっか」とだけ言った。
信号が赤にかわり、交差点で俺たちは立ち止まる。
かたむき始めた日差しに、街がオレンジ色に染まり、長くなった雑踏の影が道路に伸びている。
隣にヤエがいるだけで、街の見え方が変わったような気がした。
「ああ、そういえばさ」
ヤエが思い出したように俺を見た。
「うん?」
気づいたらヤエがまた、俺の服のそでをつまんでいた。
「いつわたしを殺してくれるの?」
信号が青に変わる。人の波が緩慢に歩き出す。
俺とヤエだけが立ち止まっていた。
◆
俺がヤエを殺してから何時間が経過したのだろうか。
太陽は高い位置にまでのぼっていた。
だけど、俺には時間の感覚がほとんどなかった。
「さて」とヤエが前置きしてベッドから腰を上げた。
「どうやってわたしを殺してくれる?」
ヤエが挑むように俺をにらむ。
俺はなにも言葉を発せなかった。
一分たりとも睡眠をとっていないからだは、全身の血が凝り固まったように気だるい。
「……って、その状態じゃあまず普通に考えるのも無理っぽいな」
ヤエが俺に手を差し出す。
「なんだよ?」
「からだに力が入らないんだろ? 手、貸してやるよ」
「……」
「ったく、しっかりしろよな」
ヤエの手を借りて、俺はなんとか立ち上がる。
俺の腕をつかむヤエの手は妙に力強い。
「よし、このまま出かけるぞ」
「出かけるって……」
「どうせ今の状態じゃあ、頭を使うこともできないだろ。運動するぞ」
ヤエの腕はまだ俺の手首をつかんでいる。
ほどこうとしたが、彼女の手は離れそうになかった。
「運動ってなにするんだよ?」
「そうだな」
一瞬だけヤエの視線が窓ガラスの外へと向かう。
「ボウリングなんてどうだ?」
俺がなにかを言う前に、ヤエは俺の腕を引っ張りだしていた。
つづく
読んでくれてる人ありがとうございます
支援絵を書いてくてる人、遅くなりましたが改めてありがとうございます
すでに一度ブログに書かれた絵を載せてしまいましたが、許可も貰わずに載せるのはやはりダメだと思い現在は外してあります
書いてもらった絵を、自分のブログに載せてもよいでしょうか?
それだけ返事くださると助かります
今回も面白かったです
ヤエちゃんVer.2はボウラーなんだななるほど
絵の人です。どうぞ使ってください!
念のため…私は101さんではないです。
好きで描いているのでむしろ使ってもらえて嬉しいです。
コメントは差し控えました、荒れる原因になってしまったらいけないので…
あともし良かったら>>96も使ってくださいね!
すみません、もう描かないとしながら、更新を見て描きたくなって描いてしまいました(;´∀`)
これも置いていきますっ カキニゲー
二人とも乙
偽物が来たらわからなくなるよ
主人公はヤエを2回殺したってこと?ヤエかわええ
次回も楽しみ!
絵の人乙です!
あなたの絵好きです!
オープンで書くとは思わなかったが
表現しにくいけど味があるというか
なぜか物悲しい雰囲気がする
ヒグラシ(漫画じゃなくて本物のセミのほう)の鳴き声みたいな感じ