高校の時、同級生の彼女がいた
俺も彼女もお互い初めての彼氏、彼女で、なんというか、ピュアな感じで付き合ってた
もちろん俺はセックスもしたかった
高校生と言えば、下半身で息をする生物だし、やりたくて仕方がなかった
でも下手に誘えば引かれると思って、様子を見ていた
そんなある日、彼女はアルバイトを始めた
アルバイトは飲食店で、俺もちょくちょく行っていたところだった
しばらくは制服姿の彼女が可愛らしくて通っていた
でもしばらくすると、急に彼女からのメールの数が減った
おまけに一緒にいても上の空って感じになってた
どうしたのかと聞いても、なんでもないを繰り返すばかりだった
俺は真っ先に浮気を疑った
彼女が変わったのはアルバイトをしてから……つまりは、浮気相手がいるなら、それはアルバイト先の奴
そう思った俺は、彼女のバイトが終わる時間に外で待ち伏せをすることにした
物陰に隠れて、彼女のバイトが終わるのをひたすら待った
当時彼女は夜7時までのバイトだった
でもその時間を周っても、彼女は店から出てこなかった
しばらく待ち続けた結果、彼女はようやく店の従業員出入り口から出て来た
時刻は夜10時
こんな時間まで何をしていたのかと思ったが、それはすぐに分かった
彼女は、男と一緒に出て来た
見るからに遊んでそうな、イケメンだった
二人はまるで彼氏彼女のように、楽しそうにしていた
そして彼女は、男の車に乗り込んで帰って行った
俺は、呆然と立ち尽くしていた
そして帰り道、深夜徘徊で警察に補導された
それから俺は、男の素性を探り始めた
当然学生だったから、興信所なんて知らなくて、自分で探すほかなかった
学校をサボり、とにかく街中を自転車で走り回った
そして偶然にも、あの日彼女が乗った車を見つけることが出来た
真っ赤なド派手な車だったから、すぐにそいつの車だと分かった
それはアパートの駐車場
つまりは、男はそのアパートのどこかに住んでいるということ
俺は号室を調べるべく、張り込みを開始した
張り込みを続けること2時間くらいか
男は、意外にも徒歩で帰ってきた
どうやら車を置いて出かけていたらしい
その時、俺は目を疑った
男は、彼女と一緒だった
愕然とする俺の視界で、彼女は男の部屋であろう一階の角部屋に当たり前のように男と入って行った
俺は再び立ち尽くし呆然とした
そして、どうやら不審者と思われたのか、誰かに通報されて警察に職質された
後日、俺は覚悟を決めていた
アパートの近くで待機し、赤い車の帰りを待っていた
夜10時過ぎ、男の車が駐車場に止まった
そして当然のように助手席から降りる彼女
二人は、男の部屋へと消えていった
俺はアパートのリビング近くに身をひそめ、中の音に耳を立てた
中からは楽しそうに会話する彼女と男の声
その段階で俺は絶望と憤怒に苛まれていた
そしてやがて、彼女の楽しげな話し声は、籠った短い声に変わり始めた
時折恥ずかしそうに「やん」とか「もう」とか聞こえていた
どう考えても、これからおっぱじめる気満々だった
俺は、頭が真っ白になった
確定も確定
どこまでも深い真っ黒黒助
彼女の浮気は、確定した
いや、もはや浮気ではないのかもしれない
その段階で既に、彼女の本命は男だったのだろう
気が付けば、俺は泣いていた
漏れそうになる声を必死に殺し、俺は泣き続けた
声を出すまいと止める息の合間に、彼女の喘ぎ声が聞こえていた
未だ見たこともない彼女の裸体
男はそれを貪り、本来彼氏であるはずの俺が外で惨めに泣いてしまっている
それが悔しかった
切なかった
辛かった
でも、何より一番悲しかったのは、絶賛浮気中の彼女の声に、俺の股間がいきり立ってしまっていたことだった
それから俺は家に帰り、泣き顔を親に見られないようにダッシュで自室にこもり、布団の中で泣き続けた
もしかしたらまだ彼女は男といるのかもしれない
そう思うと、涙が止まらなかった
とても寝付ける状態でもなくて、朝まで泣きとおした
東の空から太陽が顔を出し始めたころ、俺の涙はようやく止まっていた
そして俺の胸に湧き上がっていたのは、復讐心だった
男に対してはもちろん、彼女に対しても耐え難い憎しみが募っていた
おそらく、彼女を想う気持ちが全て憎悪になったのだろう
愛情と憎悪は紙一重とはよく言うが、まさにその通りだと思う
それほど、俺は怒り狂っていた
とはいえ、いくら怒り心頭でも、ビビりだった俺は思い切った行動をとれなかった
そして俺は、ひたすら考えた
彼女と、男を地獄に落とす方法を
それから俺は行動に移った
とにかく、場所を問わず、時間を問わず、彼女とべったりくっ付いた
彼女は突然のことに戸惑っていたようだ
そんなことをお構いなしに、俺は彼女に尽くした
ノートを取り、ジュースを渡し、優しい労いの言葉をかけ、誠心誠意(?)彼女に尽くした
俺と彼女の友達から冷やかされることも増えた
その度に“俺達付き合ってラブラブなんですよ”アピールをし続けた
その間も、彼女は男の家に行っていた
そんなことは計算のうちだった
むしろ、行ってくれないと困る感じだった
俺は彼女と男の事情の声を聞くために、密かにアパートへ通い続けた
それと同時進行に、俺は友達の輪を広げることにも力を入れた
いつしか友達は増え、更には彼女の友達とも仲良くなれた
そしてついに、時は訪れた
その日は、彼女のバイトの日
俺は敢えてその日を狙い、友達みんなでボーリング、カラオケに行った
時刻は夜10時前
自転車で帰っていたみんなに、俺は提案した
この時間に彼女のバイトが終わるから、みんなで迎えに行こう
当然、それに反論する奴はいなかった
バイト先に着いたのは、夜10時ころ
みんなでバイト先の近くで隠れ、彼女へのドッキリ作戦を決行すべく待つ
そして、彼女は店から出て来た
やはり男と一緒に
しかもだいぶん二人の仲は進行していたようで、おあつらえ向きにも従業員出入り口を出た瞬間に熱いキスをかましていた
その時の、彼女の友達の「え……」という呟きは未だに脳裏に刻まれている
そして例のごとく、彼女は男と車で消える
しかしその日呆然としていたのは、俺ではなかった
俺の友達と、彼女の友達だった
俺は一人、ほくそ笑んでいた
次の平日、教室は異様な雰囲気に包まれていた
彼女を取り囲む、俺と俺の友達、そして彼女の友達
その中心にいる彼女は、終始俯いていた
「あんた、マジで最低だね」
彼女の友達は、言い捨てるように彼女に言う
「お前さ、〇〇(俺)の気持ち考えたことあんの?こいつがどれだけ本気だったのか、分かってんの?」
俺の友達は、ブチギレていた
バッシングを受ける度に、彼女は小さく身震いする
それが凄まじく愉快で、俺は頬を噛み、にやける顔を必死に抑えていた
本来の計画としては、
彼女が男の車に乗る→心配でみんなで後を追う→偶然を装い、男のアパートへと行く→彼女の喘ぎ声を聞かせる
というものだったが、いきなりのキスという嬉しい誤算のおかげで手っ取り早く済んでいた
俺は彼女に、トドメを刺すことにした
「お前さ、あいつの家に行った?」
「行ってない!送ってもらっただけ!」
彼女は光の速さでそう答える
「いやいや、嘘つくなよ。お前、アイツんちに行ったじゃん。俺さ、あれから一人であの車探したんだよ。そしたら偶然見つけてさ、〇〇ってアパート」
アパート名を出した瞬間、彼女は凍り付いた
「外まで聞こえてたよ。喘ぎ声」
そして友人たちはドン引く
「うっわ……マジかよ……」
「キモイんだけど。ねえ、あんたキモイんだけど」
友人たちは更に追い打ちをかける
彼女はというと、耐え切れず泣き出してしまっていた
その段階で、予定よりも上手く行き過ぎていた
このままでは彼女を追い詰めすぎてしまう
そう思った俺は、すかさずフォローを入れた
「……でもさ、ようするに、お前はあいつの方が好きになったんだろ?それが言い出せなくて、あんな形になってたんだろ?」
彼女は小さく頷く
自分でそう言わせておいてなんだが、ショックだった
「それならきちんと言って欲しかった。好きな人が出来たからって、ちゃんと言って欲しかったよ。それなら、こんな後味悪い終わり方もしなくて良かったのに」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女は泣きながら、俺に謝っていた
「あいつと、うまくいくといいな。頑張れよ」
俺はあえて優しく声をかける
彼女は何度も頷いていた
そして友達と彼女の友達も、暖かく俺を見ていた
彼女の友達が泣いたのにはびっくりしたけど
こうして俺は、浮気されながらも優しく身を引き、元彼女の新たな恋を応援するという健気な男という立場を確立させることに成功した
だがその時、彼女は知らなかった
その時点で、男は既に店を辞め、遠くへ逃げ出しているであろうことを
俺は事前に、店に電話していた
そして従業員であるあの憎き男に名指しで繋いでもらった
「もしもし?」
不機嫌そうな男の声
俺は、事前に作っていたメモのとおりに話す
「あ、〇〇(男)さんですか?」
「ああ?そうですけど?なんすか?」
「いや、実はね、俺、知ってるんですよ。あんたが高校生に手を出してること」
「……は?」
男の声は、明らかに動揺していた
「女子高生を家に連れ込んで夜遅くまでセックス……これって、犯罪ですよね?青少年育成法ですっけ?実はね、もう証拠もあるんですよ。あとは警察に持っていけば、逮捕されますよ?」
「いや、意味わかんないんすけど。え?え?なんすか?」
激しく動揺する男
俺は必死に笑いをこらえていた
「まあ、今は保留しておきます。ただ、俺はあなたの顔を知ってますから。顔見たら、もしかしたら頭来てそのまま警察に行くかもしれませんけど」
「いや……マジ、勘弁してください」
男は小声で弱々しく言っていた
「あんまり目立つことはしない方がいいですよ?では……」
そして電話を切った
男は想像以上にヘタレだった
警察って言葉と、逮捕って言葉に凄まじく反応していた
そんなヘタレの考えることなど、逃げるという選択肢しかない……俺は、そう確信した
今考えたら、かなり危ない橋だったけど
結局男は、その店を辞めてどこかへ引っ越したようだった
もちろん、彼女に何も言わないまま
ある日彼女が電話してきた
相手の男が店を辞めたと
挙句、もう一度やり直したいとかほざいてきやがった
当然、答えはNO
正義は俺にあると言わんばかりに、彼女にボロカス言った
そして男を失い、彼氏を失い、友達を失った彼女は、結局卒業までボッチだった
俺は奇しくもこれを期に友達となかなか楽しい学校生活を送ることが出来たとさ
ただ一つだけ、この時のことを振り返ると、今でも後悔することがある
あの時
彼女ともう一度付き合っていれば
俺は童貞を卒業出来ていた、と
おわり
たのしかったよ